8/31 ある知者の洞察 (第43回)~知者の叱責,愚者の笑い〜
- 平岡ジョイフルチャペル
- 8月31日
- 読了時間: 5分
2025年8月31日 主日礼拝
聖書講話 「ある知者の洞察 (第43回)~知者の叱責,愚者の笑い〜」
聖書箇所 コヘレトの言葉 7章5〜6節
[聖書協会共同訳]
[下線は改善の余地があると私には思われる部分]
5 知恵ある者の叱責を聞くのは/愚かな者の歌を聞くにまさる。6 愚かな者の笑いは/鍋の下で茨がはじける音のようなもの。/これも空である。
以下は,ヘブライ語(MT)とギリシャ語訳原文(LXX)の解明に基づく三上の私訳と講解.両者とも,各用語の解明に基づく逐語訳に努めた.
5
טֹ֕וב לִשְׁמֹ֖עַ גַּעֲרַ֣ת חָכָ֑ם מֵאִ֕ישׁ שֹׁמֵ֖עַ שִׁ֥יר כְּסִילִֽים׃
(もっと)よい←聞くことは/叱責を←知者の//ある男よりも←聞いている/歌を←愚者たちの.
ἀγαθὸν τὸ ἀκοῦσαι ἐπιτίμησιν σοφοῦ ὑπὲρ ἄνδρα ἀκούοντα ᾆσμα ἀφρόνων·
(もっと)よい←聞くことは/叱責を←知者の//ある男よりも←聞いている/歌を←愚者たちの.
5.1 MT(ヘブライ語聖書)とLXX(七十人訳ギリシア語聖書)
一字一句が一致している.
5.2 「(もっと)よい←聞くことは/叱責を←知者の」
5.2.1 「(もっと)よい←聞くことは」
「(もっと)よい」は,原文では「よい」だが,文意は比較級なので,「(もっと)よい」と訳した.聴くことはもっとよいというとき,コヘレトは何のことをいっているのか?
5.2.2 「叱責を←知者の」
「叱責」とは叱ること.厳しすぎる人からガミガミ叱られるのは,たまったものではない.しかし,ここは知者の叱責である.雷のようなものもあれば,そよ風のようなものもある.いずれにせよ,知者の叱責は心に届く.ずしんと響く.よい影響を与える.
5.2.3 『箴言』(前200頃?)〜ユダヤ教の知恵〜
ユダヤ教徒にとっては,知者の叱責といえば,『箴言』であろう.ヘブライ語でמִישְׁלֵי, ミシュレー (格言), ギリシア語で Παροιμίαι (格言)という.
たとえば,『箴言』1章10〜14節 「10 子よ、罪人が誘いをかけてきても/応じてはならない。11 彼らはこう言うだろう/「一緒に来い。/待ち伏せして血を流してやろう。/無実の人を故なく狙おう。12 陰府のように、生きたまま一吞みに/墓穴に落ちた者と全く同じようにしてやろう。13 値打ちのあるものは残らず探し出し/戦利品で家を満たそう。14 我々の仲間になって/財布も一つにしよう。」

5.2.4 エピクロス (前341-前270)〜ギリシアの知者〜
1) 魂は肉体から分離されると,すぐに煙のごとく消え去る.死は存在せず.なぜなら,我らが存在する限り死の存在はなく, 死の存在あるとき, 我らが存在しないからである.
(2) 貧乏に甘んずることは栄誉ある財産だ. 自分が持てる限りのものを,自分にふさわしい富と考えざるものは,世界の主となったとしも不幸である.多くの人々は富を得るや,悪から逃れようとせず,より大いなる悪へ転向する.
(3) 正しい人は最も平静な心境にある.これに反し,不正な人は極度の動揺に満ちている.正義のもたらす最大の実りは心の平静である.
(4) 友とともにせざる晩餐は,獅子や狼の生活のようだ.人が何を食べているかより,誰と食べているかを見ることだ.
(5) 賢い者は政治に走らない.隠れて生きよ.
(6) 自分が出来ることを,神に頼んでも無駄である.明日を最も必要としない者が,最も快く明日に立ち向う.
(7) 困難が大きければ大きいほどそれを乗り越えたときの栄光もまた大きくなる.
(8) 水とパンで暮しておれば,わたしは身体上の快に満ち満ちておられる.チーズを小壺に入れて送ってくれたまえ,したいと思えば豪遊することもできようから.
5.3 「人よりも←聞いている/歌を←愚者たちの」
5.3.1 「ある男よりも←聞いている」
「ある男」(Hb. イッシュ;Gk. アネール)は,宴会の主宰者を連想させる.その人は富者,政治や宗教の指導者であるかもしれないが,堕落している.「聞いている」は,宴会の喧騒の中にいることを示唆する.
5.3.2 遊興にうつつを抜かす指導者たちに対する預言者アモスの警告
[聖書協会共同訳] アモス章6章4〜7節「4 あなたがたは象牙の寝台に横たわり/長椅子に寝そべり/羊の群れから小羊を/牛舎からは子牛を取って食べている。5 竪琴の音に合わせて歌に興じ/ダビデのように自分たちのための楽器を考え出す。6 鉢でぶどう酒を飲み/最高の香油を身に塗るが/ヨセフの破滅に心を痛めることがない。7 それゆえ、今や彼らは捕囚の列の先頭を行く。/寝そべる者たちの酒宴も終わる。」
5.3.3 古代ギリシアの宴会と音楽

5.3.4 「歌を←愚者たちの」
「歌」(Hb. シル;Gk. アースマ)は,おそらく酔いどれの下品な歌.「愚者たち」とは,宴会の主人の裏金議員風の人たち.主人と同様に人間としての水準が低い人たち.
ただし,コヘレトは快楽を全面的に否定しているのではない.フロイトがリビドーと名づけた欲望・情熱は誰にでもある.それの野放しはいけない.それを適度に抑制することによって,適度の快楽は楽しむことは,人間にとって自然であり,幸福である.
6
כִּ֣י כְקֹ֤ול הַסִּירִים֙ תַּ֣חַת הַסִּ֔יר כֵּ֖ן שְׂחֹ֣ק הַכְּסִ֑יל וְגַם־זֶ֖ה הָֽבֶל׃
なぜなら,音のような←イバラ(pl.)/鍋の下の,そのような笑い←愚者たちの.そしてこれもまた蒸気.
ὅτι ὡς φωνὴ τῶν ἀκανθῶν ὑπὸ τὸν λέβητα, οὕτως γέλως τῶν ἀφρόνων· καί γε τοῦτο ματαιότης.
なぜなら,音のような←イバラ(pl.)/鍋の下の,そのような笑い←愚者たちの.そしてこれもまた空虚.
6.1 MT(ヘブライ語聖書)とLXX(七十人訳ギリシア語聖書)
ほぼ一字一句が一致している.MT「蒸気」(ヘベル)は,LXXでは「空虚」(マタイオテース).
6.2 「なぜなら,音のような←イバラ(pl.)/鍋の下の,そのような笑い←愚者たちの」
6.2.1「なぜなら」 例を挙げる.

6.2.2 「音のような←イバラ(pl.)/鍋の下の」
イバラが燃えるパチパチという音.必ずしも不快な音ではないかもしれない.しかし,コヘレトの強調点は,しばし音を立てているが,やがて燃え尽きてしまう薪の移ろいやすさ・空しさである.人間は薪である.
6.2.3 「そのような笑い←愚者たちの」 喧しいだけの空虚な笑い.
6.3 「そしてこれもまた蒸気(or 空虚)」
6.3.1 「これもまた」
第一義的には「愚者たちの歌」を指すと思われる.しかし,「知者の叱責」も除外されないかもしれない.知者と言えども人間並みの知者にすぎない,という認識を,人間たちの中かの最大の知者と言われたソクラテスはもっていた.
6.3.2 「蒸気 (or 空虚)」
MTは「蒸気」(ヘベル).LXXは「空虚」(マタイオテース).実体がない.移ろいやすい.恒常性がない.これが,人生のありのままの姿であることを,コヘレトは看破している.しかし,彼は自分が知者であるとは,ゆめゆめ考えない.真の知者は神だけである.
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