10/12 第 6 回 ダニエル書を読む 「大きな像の夢」と四王国史観
- 平岡ジョイフルチャペル
- 10月13日
- 読了時間: 4分
聖書箇所 ダニエル書 2 章 31‒45 節
話者 日髙嘉彦 北星学園大学チャプレン・教授/大秦野バプテスト教会協力牧師

1.大きな像の夢とその意味
バビロン王ネブカドネツァルはある夜、不吉な夢を見て眠れなくなった。夢の意味を知ろ
うと「魔術師、祈祷師、呪術師、カルデア人」を呼び寄せるが、王は夢の内容を語らず、
彼らに夢そのものと解釈を求めた。誰も応じられず、王は激怒して皆殺しを命じる。
そのとき、捕囚のユダヤ人青年ダニエルが祈りをもって神に求め、夢とその意味の啓示を
受ける。ダニエルはこう語った。「天の神が終わりの日に何が起こるかを王に示された」。
王の夢には巨大な像が現れる。
・ 頭は純金
・ 胸と腕は銀
・ 腹と腰は青銅
・ 脚は鉄
・ 足は鉄と粘土の混合
やがて「人手によらず切り出された一つの石」が像の足を打ち砕き、像は粉々となり、石
は山となって全地に満ちた。
2.夢の解釈:四つの王国と神の国
像を構成する四つの部分は、世界史を支配する四つの王国を象徴する。
1. 金の頭:バビロン王国(ネブカドネツァル自身)
2. 銀の胸と腕:メディア王国(バビロンの後の時代)
3. 青銅の腹と腰:ペルシア王国(広大な支配)
4. 鉄の脚、鉄と粘土の足:ギリシア時代(アレキサンダー大王と後継の二王国)
鉄は強さを、粘土はもろさを象徴する。アレキサンダーの死後、帝国は南のプトレマイオ
ス朝(エジプト)と北のセレウコス朝(シリア)に分裂し、婚姻政策によって一体化を試
みたが果たせず、互いに争い続けた(ダニエル 11 章参照)。この「鉄と粘土の混合」はま
さにその分裂と脆弱さを示している。
そして最後に登場する「人手によらない石」は神ご自身の介入を象徴し、あらゆる地上の
帝国を打ち砕いて「永遠に滅ぼされることのない神の国」が始まることを示す(2:44)。
3.歴史的解釈の多様性
この「第四の王国」について、歴史を通じて多様な解釈がなされてきた。
・ 教会教父(ヒエロニムスなど) :ローマ帝国を指すと解釈。鉄の強さはローマの軍
事力、鉄と粘土の混合は東西ローマの分裂。「人手によらぬ石」はキリストを象徴
し、キリスト教の勝利を預言するものと見なされた。
・ 中世のカトリック教会:イスラム勢力(サラセン帝国・オスマントルコ)を「第四
の国」と理解。
・ 宗教改革者たち:ローマ教皇制を「反キリスト」と見なし、その権力の崩壊を予告
する預言と読んだ。
・ 近代以降の一部の福音派:共産主義体制や中東の勢力を象徴するものと解釈。
しかし聖書学的には、著者自身が意識していた「第四の王国」はヘレニズム期のギリシア
帝国、特にユダヤを支配し神殿を冒涜したアンティオコス四世エピファーネスの時代を指
すと考えられている。
4.「四王国史観」とは何か
ダニエル書の幻に共通する枠組みは、 「四王国史観」 (Four Kingdoms Schema)と呼ばれ
る。これは、歴史を「四つの王国=人間の世界の全体」として区分し、最後に神の国が介
入して完成するという黙示的歴史観である。四つの王国は次第に堕落し、第四の王国で悪
が極まる。その後、天の神が介入して新しい王国=神の国を打ち立てる。
この思想は後の黙示文学(エズラ記・マカベア書・ヨハネ黙示録など)にも継承され、キ
リスト教終末論の基本的構図となった。
人間の歴史が進歩していくという進化的歴史観とは逆に、「悪が極まり、神がそれを打ち砕
く」という信仰的歴史観を示している。
5.信仰のメッセージ
この物語の中心にあるのは、「権力者の栄華も神の支配のもとにある」という信仰であ
る。ダニエルは王を「王の王」と呼ぶが、それは王が自ら偉大だからではなく、「天の神が
あなたに権威を与えたから」である(2:37)。しかし王がその源を忘れて高慢にふるまうと
き、神は彼を退けられる。
ダニエル書 2 章の夢は、迫害下の人々に対して「地上の帝国は必ず滅び、神の国が立つ」
という希望のメッセージを伝えている。実際、著者が生きた時代にはアンティオコス四世
によってユダヤ教が弾圧され、多くの信徒が殉教した。この幻は、信仰の友に向けられた
励ましの預言として記されたのである。

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