5/18 ある知者の洞察 (第41回)~幸福とは何か〜
- 平岡ジョイフルチャペル
- 1 日前
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2025年5月18日 主日礼拝
聖書講話 「ある知者の洞察 (第41回)~幸福とは何か〜」
聖書箇所 コヘレトの言葉 6章10〜12節
[聖書協会共同訳]
[下線は改善の余地があると私には思われる部分]
10 すでに存在するものは名前で呼ばれる。/人間とは何者なのかも知られている。/人は自分より強い者を訴えることはできない。11 言葉が増せば、空しさも増す。/それが人にとって何の益になるのか。12 空である短い人生の日々に、人にとって何が幸せかを誰が知るのだろう。人はその人生を影のように過ごす。その後何が起こるかを、太陽の下、誰も人に告げることができない。
以下は,ヘブライ語(MT)とギリシャ語訳原文(LXX)の解明に基づく三上の私訳と講解.両者とも,各用語の解明に基づく逐語訳に努めた.
10
מַה־שֶּֽׁהָיָ֗ה כְּבָר֙ נִקְרָ֣א שְׁמֹ֔ו וְנוֹדָ֖ע אֲשֶׁר־ה֣וּא אָדָ֑ם וְלֹא־יוּכַ֣ל לָדִ֔ין עִ֥ם שֶׁהתַּקִּ֖יף* מִמֶּֽנּוּ׃
何?←存在したものは/すでに呼ばれた←その名前は.そして,知られた/(それが)人間であることが.そして,(その人間は)できないであろう/戦うことが/と←強い人/彼よりも.
Εἴ τι ἐγένετο, ἤδη κέκληται ὄνομα αὐτοῦ, καὶ ἐγνώσθη ὅ ἐστιν ἄνθρωπος, καὶ οὐ δυνήσεται τοῦ κριθῆναι μετὰ τοῦ ἰσχυροῦ ὑπὲρ αὐτόν·
何かが生じたならば,すでに呼ばれてしまっている/その名前は.そして,知られた/(それが)人間であることが.そして,(その人間は)できないであろう/戦うことが/と←強い人/彼よりも.
10.1 MTとLXXはほぼ一致している.
10.2 「何?←存在したものは/すでに呼ばれた←その名前は」
10.2.1 「何?←存在したものは」
コヘレトは過去に存在したものに注意を喚起し,それが何であるかと問う.その存在で世界を席巻した帝国で言えば,アッシリア帝国,新バビロニア帝国,ペルシャ大帝国,アレクサンドロス大帝国,ローマ帝国.人物で言えば,センナケリブ,ネブカドネザル2世,キュロス2世,アレクサンドロス,カエサル.それが何であるかとコヘレトは問う.
10.2.2 メソポタミアの歴史

10.2.3 「すでに呼ばれた←その名前は」
偉大な帝国の名前であろうと偉大な人物の名前であろうと,それは,すでに呼ばれた.過去のことである.永遠ではない.存在したものは滅びなければならない.ロシアもアメリカも日本も.
10.3 「そして,知られた/(それが)人間であることが」
10.3.1 「知られた」
先の「呼ばれた」が「知られた」と言い換えられている.名前を呼ばれることは知られているということ.
10.3.2 「(それが)人間であることが」
存在したものと言う場合,何といっても人間の存在である.宇宙も地球も存在した.そして人間も存在した.両者の違いは,前者は今も存在している.しかし,後者,人間は特定の名前で呼ばれたかぎりにおいて,今は存在していない.過去の存在である.推定20万年前に人類はホモ・サピエンスになった.私たちはその末裔である.
10.3.3 人類の歴史


10.4 「(その人間は)できないであろう/戦うことが/と/←強い人/彼よりも」
10.4.1 「(その人間は)できないであろう/戦うことが」
「戦う」と訳した「ディン」は,「判決を下す」が原義.法廷用語である.そこから,「係争する」,一般的に「戦う」が派生した.
10.4.2 「強い人/彼よりも」
自分より強い人と言うと,身体・知識・精神・金銭・地位の力で自分を凌駕する人.コヘレトは,一般的事実を述べている.相撲に関しては,私より力士が強い.生成AIに関しては私よりAIエンジニアが強い.金銭力に関しては,私よりイーロン・マスクが強い.あくまでも一般論である.知恵と工夫によって,弱者が強者に勝つということがあったし,これからもありうる.
11
כִּ֛י יֵשׁ־דְּבָרִ֥ים הַרְבֵּ֖ה מַרְבִּ֣ים הָ֑בֶל מַה־יֹּתֵ֖ר לָאָדָֽם׃
なぜなら,在る←言葉が←多くの/⇦多くする←蒸気を.何の余分?←その人間にとって.
ὅτι εἰσὶν λόγοι πολλοὶ πληθύνοντες ματαιότητα. τί περισσὸν τῷ ἀνθρώπῳ;·
なぜなら,在る←言葉が←多くの/⇦多くする←虚無を.何の余分?←その人間にとって.
11.1 「なぜなら,在る←言葉が←多くの/⇦多くする←蒸気を」
11.1.1 「なぜなら」
自分より強い人と戦うことができない,ということの理由説明.
11.1.2 「在る←言葉が←多くの」
強い人に向けて語られた多くの言葉.税金の過酷な取りたてを止めてください.上からの抑圧を止めてください.暴力や武力の行使を止めてください.そのようにコヘレトの時代の人々も,声を上げ,多くの言葉を語った.
11.1.3 「多くする←蒸気を」
「蒸気」と訳した「ヘベル」は,これが原義.語られた多くの言葉は多くの蒸気となる.雲散霧消となる.強者には届かない.LXXは「虚無」と意訳.「蒸気」のほうが実感が湧く.
11.2 「何の余分?←その人間にとって」
11.2.1 「余分」
「余分」と訳した「イオテール」は,「残り物」「余分」が原義.たとえば,残飯あるいはパンくず.多くの言葉を語ったのに,雲散霧消.がっかり.パンくずほどの益もない.
11.2.2 「その人間にとって」
そのがっかり人間にとってそれが現実であるとしても,それでいいとコヘレトは言っていない.多くの言葉を語ったその人の気持ち・精神・心までもが,無駄であったと,コヘレトは断じていない.
たとえば,日蓮の『立正安国論』.1260年,日蓮は,執権北条時頼にこれを呈上した.当時の天変地異を法華経にそむいた結果と断じ,正法すなわち法華経を信じなければ安国にならないと,述べた.日蓮の意図は実現されず,かえって翌1261年,伊豆伊東に流謫され,3年の流人生活を強制された.しかし,『立正安国論』は,後代,正義と平和を求める人たちの力となり続けた.私も大学院でこの著作の講読を行い,受講生と共に多くの励ましを受けた.

12
כִּ֣י מִֽי־יוֹדֵעַ֩ מַה־טֹּ֨וב לָֽאָדָ֜ם בַּֽחַיִּ֗ים מִסְפַּ֛ר יְמֵי־חַיֵּ֥י הֶבְלֹ֖ו וְיַעֲשֵׂ֣ם כַּצֵּ֑ל אֲשֶׁר֙ מִֽי־יַגִּ֣יד לָֽאָדָ֔ם מַה־יִּהְיֶ֥ה אַחֲרָ֖יו תַּ֥חַת הַשָּֽׁמֶשׁ׃
なぜなら,誰が知っているか?/何が善かを←その人間にとって/おいて←その人生,数←人生の日々の/その蒸気の.そして彼はそれらを(人生の日々)を影のようにおこなった.なぜなら,誰が告知することができるか←その人間に/何が在るだろうかを←彼の後に⇦太陽の下で.
ὅτι τίς οἶδεν τί ἀγαθὸν τῷ ἀνθρώπῳ ἐν τῇ ζωῇ ἀριθμὸν ἡμερῶν ζωῆς ματαιότητος αὐτοῦ; καὶ ἐποίησεν αὐτὰς ἐν σκιᾷ· ὅτι τίς ἀπαγγελεῖ τῷ ἀνθρώπῳ τί ἔσται ὀπίσω αὐτοῦ ὑπὸ τὸν ἥλιον;
なぜなら,誰が知っているか?/何が善かを←その人間にとって/その人生において/数←人生の日々の/その蒸気の.そして彼はそれらを(人生の日々)を影の中でおこなった.なぜなら,誰が告知することができるか←その人間に/何が在るだろうかを←彼の後に⇦太陽の下で.
12.1 「なぜなら,誰が知っているか?/何が善かを←その人間にとって/おいて←その人生,数←人生の日々の/その蒸気の」
12.1.1 「なぜなら」
人生の「余分」の理由説明である.
12.1.2 「誰が知っているか?」
誰も知らない,ということ.人間の理解・認識の及ぶところではない,と言っている.
12.1.3 「何が善かを←その人間にとって」
「善」と訳した「トーブ」は,広い意味では「幸福」と訳すことができる.自分にとって何が幸福であるか,何が善であるかは切実の問題である.幸福を,今ここでのことに限定するなら,ひいきのサッカーチームが勝利したから,幸福であるが,次の試合では大敗.不幸となる.このような意味での幸福は,浮き沈みがあり,継続性がない.
12.1.4 「おいて←その人生,数←人生の日々の/その蒸気の」
わかりにくい表現である.「その人生」と言うのは,幸福うんぬんは,人生全体を通して総合的客観的に判断されるべきである,ということであろう.「その人生」は,「数←人生の日々の」で数えられる.多いか少ないか?老齢の極みに達し,過ぎ来し方を省みる時,あっという間であったと実感する人は多いであろう.それゆえ,人生は「蒸気」(ヘベル)である.
12.2 「そして彼はそれらを(人生の日々)を影のように行った」
12.2.1 「それらを(人生の日々)」
蒸気なような人生を指す.
12.2.2 「影のように行った」
LXXは「影の中で行った」.意味に大差はない.影のような人間が,影のような人生の中で,影のような生き方をした,ということになる.いわば,生きたけれども生きなかったというような,中味と充実感のないカゲロウのような人生.ちなみに「かげろう」の意味は,「ちらっと見える」とのこと.我が人生万歳!我が人生に悔い無し!と心の底から叫ぶことができる人は,100人中何人いるだろうか?
12.3 「なぜなら,誰が告知することができるか←その人間に/何が在るだろうかを←彼の後に⇦太陽の下で」
警告でもあり,希望でもある.今ここで幸福であるとしても,死ぬまでその幸福が続くとはかぎらない.他方,今ここで不幸であろうとしても,運または努力によっては,やがて幸福になることができるかもしれない.在世中は評価されなくても,死後に評価される場合もある.たとえば,ヨハン・セバスチャン・バッハ.
12.3.1 金子みすゞ.

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