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4/27 マタイ福音書のイエス (第36回)~〈非暴力による抵抗〉を考察する〜

  • 執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル
    平岡ジョイフルチャペル
  • 4月27日
  • 読了時間: 6分

2025年4月27日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第36回)

       ~〈非暴力による抵抗〉を考察する〜

聖書箇所    マタイ福音書 5章38〜42節   話者 三上  章


      [聖書協会共同訳]  

        ※下線は修正の余地があると思われる部分

38 「あなたがたも聞いているとおり,『目には目を,歯には歯を』と言われている.39 しかし,私は言っておく.悪人に手向かってはならない誰かがあなたの右の頰を打つなら,左の頰をも向けなさい.40 あなたを訴えて下着を取ろうとする者には,上着をも与えなさい.41 あなたを徴用して一ミリオン行けと命じる者がいれば,一緒に二ミリオン行きなさい.42 求める者には与えなさい.あなたから借りようとする者に,背を向けてはならない.」


 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


38 Ἠκούσατε ὅτι ἐρρέθη · Ὀφθαλμὸν ἀντὶ ὀφθαλμοῦ καὶ ὀδόντα ἀντὶ ὀδόντος.

あなたがたは聴きました←と言われたことを.「目を←目の代わりに.そして歯を←歯の代わりに」


38.1 「あなたがたは聴きました←と言われたことを」

 モーセの律法のことを言っている.イエスの学友たちも,マタイ教会のクリスチャンたちも,それを耳で聴いている.当時の多くの人は字が読めなかったから,聴くことは読むことであった.


38.2 「目を←目の代わりに.そして歯を←歯の代わりに」

38.2.1 ハムラビ法典に遡る文言である.ハムラビ法典に限らず,古代オリエント全域の民法・刑法の基本であった.いわゆる「同害復讐」(タリオ)の原則である.上級自由人同士にのみ適用された.被害者の所属階級が異なる場合は,すなわち一般自由人や奴隷の場合は,賠償金の支払いで処理された.報復のすすめではない.富と力をもつ上級自由民に対する,過度の報復をいましめる法律である.

38.2.2 旧約聖書にも出てくる.出エジプト記 21章24節.レヴィ記 24章20節.申命記 19章21節.

[出エジプト記 21章24節]

ὀφθαλμὸν ἀντὶ ὀφθαλμοῦ, ὀδόντα ἀντὶ ὀδόντος, χεῖρα ἀντὶ χειρός, πόδα ἀντὶ ποδός

目を←目の代わりに,歯を←歯の代わりに,手を←手の代わりに,足を←足の代わりに.


39 ἐγὼ δὲ λέγω ὑμῖν μὴ ἀντιστῆναι τῷ πονηρῷ · ἀλλ’ ὅστις σε ῥαπίζει εἰς τὴν δεξιὰν σιαγόνα, στρέψον αὐτῷ καὶ τὴν ἄλλην ·

しかし(他ならぬ)私は言います←あなたがたに/立ち向かわないように←その悪い人に.そうではなく,誰であれあなたを殴る人←右の頬に対して,向けなさい←その人に←もう一方を.


39.1 「しかし(他ならぬ)私は言います←あなたがたに/立ち向かわないように←その悪い人に」

39.1.1 「しかし(他ならぬ)私は言います」

 「しかし」(デ)は,復讐・報復に対する反対の主張.「(他ならぬ)私は」(エゴー) は

強調形.マタイは,イエスの威力を借りて自分の考えを表明する.

39.1.2 「あなたがたに」

 イエスの学友たちとマタイ教会のクリスチャンたちを指すと考えられる.

39.1.3 「立ち向かわないように」

 「立ち向かう」(アンティステーミ)は,頻繁に戦争用語として使用される.ここでは,武力をもって立ち向かうの意味に解釈した.殴る,蹴る,剣で切る,槍で刺す,弓矢を射る,石を投げる,など.暴力は絶対だめだと,マタイは言っている.

39.1.4 「その悪い人に」

 「その悪い人」と訳したのは,定冠詞がついているから.誰をさすのか?文脈の観点からは,自分の身体に傷害を与えた人ということになる.マタイ教会のクリスチャンは,狂信的な種類のユダヤ教徒たちから,暴力を振るわれることがあったのではないかと,推察される.


39.2 「そうではなく,誰であれあなたを殴る人←右の頬に対して,向けなさい←その人に←もう一方を」

39.2.1 「そうではなく」

 マタイは,改めて暴力による抵抗を否定する.

39.2.2 「誰であれ・・・人」(ホスティス)

 どんなに悪い人でも,と言うのか?当然,異論はあるだろうが,これがマタイの立場である.

39.2.3 「向けなさい←その人に←もう一方を」

 田川建三氏は,その著作『イエスという男』において,これを「逆説的反抗者」の姿勢と表現している.イエス曰く:「権力者共がやって来てなぐりやがったら,面のあっち側も向けてやれ.しょうがねぇんだよな」.決して臆病な屈服などではない.暴力こそは用いないが,内に秘めたる強い抵抗心である.ガンディーの「非暴力による抵抗」を想起せざるをえない.


39.2.4 塩の行進 the Salt Satyagraha

 1930年にインドのガンジーが,英国による塩の専売制に反対するために行った抗議運動.自分たちの手で海水から塩を作るため,海岸までの約380キロメートルの距離を行進した.イギリス警察は,このガンディーとそのサティヤーグラハ運動の集団に対して,塩法に違反するとして棍棒で見境なく殴打して押さえようとした.それでも非暴力を貫くガンディーは,反撃することなくなおも塩を拾い続け,インドの民衆に強い支持を受けた.



40 καὶ τῷ θέλοντί σοι κριθῆναι καὶ τὸν χιτῶνά σου λαβεῖν, ἄφες αὐτῷ καὶ τὸ ἱμάτιον ·

そしてあなたに欲する人には/裁判がなされることを,そしてあなたのキトーンを受け取ることを,その人に許しなさい←ヒーマティオンも.


40.1 「裁判がなされること」

 マタイは,イエスが官憲から受けた仕打ちを思い浮かべているかもしれない.イエスは神殿のサンヘドリンで裁判にかけられた.同様に,イエスに従うクリスチャンたちも,シナゴーグで裁判にかけられる.

40.2 「キトーン・・・ヒーマティオン」

 イエスは,ローマ兵たちによって衣服をはぎ取られた.同様に,イエスに従うクリスチャンたちも,衣服をはぎ取られるであろう.



 イエス時代の男性のローマ市民は,通常,二枚の衣服を重ね着していた.下の衣服は「キトーン」と呼ばれ,亜麻か綿でできていた.ラテン語では「トゥニカ」(tunica). 上の衣服は「ヒーマティオン」と呼ばれ,外套状のもの.ラテン語では「トガ」(toga).

 ローマ時代の法廷では,被告人は量刑としてキトーンを請求された.しかし,ヒーマティオンは,人道上の理由で請求されなかった.マタイは,彼のクリスチャン同士たちに,キトーンだけではなくヒーマティオンをも与えなさいと言うことによって,クリスチャンたる者は,法律の水準の上を行くように勧めている.


41 καὶ ὅστις σε ἀγγαρεύσει μίλιον ἕν, ὕπαγε μετ’ αὐτοῦ δύο.

そして誰であれあなたを荷役させる人は←1ミーリオン(約1500メートル),進みなさい←その人と共に←2ミーリオン.


 ローマ軍は被征服民を荷役に徴用した.マタイの念頭には,ローマ兵士によってイエスの磔刑柱を運ばされたキュレーネ人シモンの姿があったかもしれない.クリスチャンは,自分の磔刑柱を担ぎ,いつまでもどこまでもイエスに従うべきであるという,マタイの宗教的理想がここに見てとれるかもしれない.


42 τῷ αἰτοῦντί σε δός, καὶ τὸν θέλοντα ἀπὸ σοῦ δανίσασθαι μὴ ἀποστραφῇς.

あなたに懇願している人に与えなさい.そしてあなたから借りることを欲している人を見放してはなりません.


42.1 「あなたに懇願している人に与えなさい」

 「あなた」は,高利貸しを指すという解釈がある.高利子でもいいからお金を借りたいというせっぱ詰まった人には,お金を貸すのではなく与えなさいということになる.

42.2 「あなたから借りることを欲している人を見放してはなりません」

 同様に,借金を返済できない人には,返済を免除してあげなさいということになる.

貸すということは与えるということである.大学時代,一番大事にしていた本を先輩が借りたいというので,貸してあげた.先輩は医学部の学生である.気に入ったと見えて,なかなか返してもらえなかった.とうとう返してもらえなかった.

 その本,波多野精一著『時と永遠』は先輩のものとなった.その著作は,「無常にして不安定な現世の時間性を克服するためには、「他者」との生の共同による宗教的生によってこそ永遠性への道が開かれる」ことを、透徹した文体により論じる.先輩がよい医師になるにあたり,その本が役に立ったならばうれしい.



 
 
 

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