3/15 ある知者の洞察(第47回)~自己吟味・知恵の威力・人間の限界〜
- 平岡ジョイフルチャペル

- 3月15日
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2026年3月15日 主日礼拝
聖書講話 「ある知者の洞察(第47回)~満遍なく・知恵の威力・人間の限界〜」
聖書箇所 コヘレトの言葉 7章18〜20節 話者 三上 章
[聖書協会共同訳]
[下線は改善の余地があると私には思われる部分]
18 一方をつかむとともに/他方からも手を離してはならない。/神を畏れる者はいずれをも避ける。19 知恵は知恵ある者を力づけ/町にいる十人の権力者よりも強くする。20 地上には/罪を犯さずに善のみを行う正しき者はいない。

以下は,ヘブライ語(MT)とギリシャ語訳原文(LXX)の解明に基づく三上の私訳と講解.両者とも,各用語の解明に基づく逐語訳に努めた.MTを主とし,LXXと比較しながら講話を進める.
18
טֹ֚וב אֲשֶׁ֣ר תֶּאֱחֹ֣ז בָּזֶ֔ה וְגַם־מִזֶּ֖ה אַל־תַּנַּ֣ח אֶת־יָדֶ֑ךָ כִּֽי־יְרֵ֥א אֱלֹהִ֖ים יֵצֵ֥א אֶת־כֻּלָּֽם׃
よい//←あなたがつかむことは←これを.そして,あれからもあなたは離すな←あなたの手を.なぜなら,神を畏れる人は出かけるでしょう←それらのすべてと共に.
ἀγαθὸν τὸ ἀντέχεσθαί σε ἐν τούτῳ, καί γε ἀπὸ τούτου μὴ ἀνῇς τὴν χεῖρά σου, ὅτι φοβούμενος τὸν θεὸν ἐξελεύσεται τὰ πάντα.
よい//←しがみつくことは←あなたが←これの中で.そして無論あれから離すな←あなたの手を.なぜなら,神を畏れている人は出て行くでしょう←すべての点で.
18.1 MTとLXX
LXXはMTの逐語訳を目指しているが,下線の部分がうまく訳せていない.MTのほうが文意がとりやすい.
18.2 「よい//←あなたがつかむことは←これを」

18.2.1 文脈
文脈から見て,善と悪の話である.正と不正と言ってもよい.正しい人と悪い人である.19世紀のスコットランド生まれの小説家ロバート・スティーブンソンの『ジキル博士とハイド氏』は,よく知られている.あの『宝島』も,趣向が異なるが,スティーブンソンの作品である.『ジキル博士とハイド氏』,英名では『The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde』で,直訳で”ジキル博士とハイド氏の奇妙な物語”.ジキル博士のジキルは,7世紀ブルトン(フランス北西部の民族)の王「聖ユディカエル」に由来.「慈悲深い君主」の意.ハイド Hyde は「隠れる」hide に掛けたもの.
ヘンリー・ジキル:医学博士・民法学博士・法学博士・王立科学協会会員などの肩書を合わせ持つ高名で有名な博士.勤勉で,人当たりの良い穏やかな性格.立派な風采,大柄な男性.エドワード・ハイド:見る人を不快な気分にさせるような雰囲気の,醜悪かつ小柄な男.ある時からジキルの元に出入りするようになる.何故かジキルの遺産を相続することになっている.実は,一人の人物の中にジキル博士とハイド氏の両方が住み着いているという話.他人事ではない.わたしの中に正しい人と不正な人が,善い人と悪い人が住み着いている.
18.2.2 「よい」
100%よいというよりも,70%くらいよいということかと思う.
18.2.3 「つかむ」
しっかりつかむ.善人であることに固執する.精進する.ジキル博士は善人であることに務めた.少なくとも外面上は.
18.2.4 「これ」
一人の人間には「これ」もあれば「あれ」もある.「これ」とは,善であり正である.「これ」ばかりだと,行き詰まる.人生がぎすぎすしたものとなる.というか,人間は四六時中善人を貫き通すことはできない.
18.3 「そして,あれからもあなたは離すな←あなたの手を」
18.3.1 「あれからも」
「あれ」とは「これ」の反対であるから,悪や不正ということになる.
18.3.2 「あなたは離すな←あなたの手を」
悪や不正をしてもいいということではなく,自己のそういった負の部分に目を留める必要がある.自己の問題として意識するということ.それがジキル博士にはなかった.悪に快楽を覚え,悪の奈落に沈んでいった.
18.4 「なぜなら,神を畏れる人は出かけるでしょう←それらのすべてと共に」

18.4.1 「なぜなら」
一人の人間の中には善と悪の両面がある.善人は善に励みつつも,自分を悪しき欲望に引き込もうとする隠然たる力を意識し,それに抵抗しなければならない.その悪しき力は「秘密」であったりするが,それに向き合い,自己分析を掘り進むのが,真の善人である.たとえば,アウグスティヌス『告白』然り.ペトラルカ『わが秘密』然り.
18.4.2 「神を畏れる人」
それを行う人を,コヘレトはこのように呼ぶ.神への畏敬なしには,自己の内なる悪の問題に太刀打ちできない.
18.4.3 「出かけるでしょう」
どこに出かけるのか?登山にたとえるなら,究極の山頂を目指して登りつづける.仏教では,ブッダになることを目指して仏道を精進する.キリスト教では,特に東方のキリスト教では,神に似た者になるべく修行する.西方のキリスト教は,ややもすると修行の面に欠けるきらいがある.

上智大学神学部名誉教授の門脇佳吉先生は,キリスト教は教説の受容ばかりではなく,キリストが歩んだ道を歩むべきだとして,キリスト教を「キリストの道」と呼んでいる.具体的には,座禅の実践をキリスト教に導入している.
18.4.4 「それらのすべてと共に」
善の実践と悪の消滅を目指して,神を畏れる人は人生を歩む.
19
הַֽחָכְמָ֖ה תָּעֹ֣ז לֶחָכָ֑ם מֵֽעֲשָׂרָה֙ שַׁלִּיטִ֔ים אֲשֶׁ֥ר הָי֖וּ בָּעִֽיר׃
その知恵は強い←ある知者にとって//よりも←10人の支配者たち←その町の中にいる.
Ἡ σοφία βοηθήσει τῷ σοφῷ ὑπὲρ δέκα ἐξουσιάζοντας τοὺς ὄντας ἐν τῇ πόλει·
その知恵は助けるだろう←知者を//にまさって←10人の権力を振るっている人たち←そのポリスの中にいる.
19.1 MTとLXX
LXXの下線部は意訳.他は,両者は一致している.MTに従って講話を進める.
19.2 「その知恵は強い←ある知者にとって」

19.2.1 「その知恵」
コヘレトが目指す知恵.アリストテレスが『形而上学』の冒頭で,「すべての人間は生まれつき知ることを欲する」と言った知恵.
19.2.2 「強い」
孔子,ソクラテス,釈迦牟尼,イエスら四大始祖に備わった知恵が,力強い助けになることは,歴史が証明している.コヘレトは,アテナイというポリスに徹して生きたソクラテスあたりを,意識しているかもしれない.
19.2.3 「にまさって」
知恵こそは,何にもまさって求められるべき最上のものであると,コヘレトは言っている.
19.2.4 「10人の支配者たち」
彼らの財力や政治権力のことを言っていると思われる.しかし,これが侮れない.世界の歴史は,特に戦争の歴史はこういった人たちによって,血塗られてきた.現代もそうである.彼らが緊急に必要としているものは,武器ではなく知恵である.
19.2.5 「その町の中にいる」
北海道や東北地方には,熊対策の問題がある.自然環境の乱開発の問題もある.財政難の問題もある.解決は天から降ってくるわけではない.多額のお金を投入すれば,解決するものではない.市や町や村に住む人たちが一丸となって,知恵を振り絞らなければならない.この点において,ボランティアの働きは尊い.
20
כִּ֣י אָדָ֔ם אֵ֥ין צַדִּ֖יק בָּאָ֑רֶץ אֲשֶׁ֥ר יַעֲשֶׂה־טֹּ֖וב וְלֹ֥א יֶחֱטָֽא׃
なぜなら,人間はいない←正しい←その地の中に//ところの←善を行うであろう,そして過ちをしないであろう.
ὅτι ἄνθρωπος οὐκ ἔστιν δίκαιος ἐν τῇ γῇ, ὃς ποιήσει ἀγαθὸν καὶ οὐχ ἁμαρτήσεται.
なぜなら,人間はいない←正しい←その地の中に//ところの←善を行うであろう,そして過ちをしないであろう.
20.1 MTとLXX
両者は完全に一致している.MTに従って講話を進める.
20.2 「なぜなら」
前説の10人の権力者を示唆する.一つの都市の中で,10人が支配者であり,他は被支配者である構図である.アレクサンドロス大王の帝国然り.ユーリウス・カエサルのローマ共和制然り.現代世界においても,大国は多くの国民を有しているが,ごく少数の権力者たちによって支配されている.習近平国家主席,プーチン大統領,トランプ大統領.国民は被支配者同然である.これらわずか数人が,自国だけではなく国際社会を操作している.
20.3 「人間はいない←正しい←その地の中に」
20.3.1 「人間はいない←正しい」
都市に大勢の人間はいるが,正しい人は少ない.正しい人間はいないという表現は,コヘレトの大きな嘆きを示唆する.
20.3.2 「正しい」
正しい人とは誰か?正しさとは何か?それがプラトン『国家』篇の主題であった.
20.3.3 「その地の中に」
「地」(ゲー)は,特定の都市ではなく,全世界を指す.コヘレトといえども,海外を股にかけたわけではないだろうが,世界の中に真の知者を見いだすことは,至難の業であるというのが,コヘレトの認識であった.
20.4 「ところの←善を行うであろう,そして過ちをしないであろう」
20.4.1 正しい人の説明である.
20.4.2 「善を行うであろう,そして過ちをしないであろう」
すぐれた君主たるもの,善かれと考えて善政を行おうとするけれども,神ではなく人間である以上,過ちをおかした事例は,過去に多々ある.現代においてもである.各国の首脳はそういう岐路にたえずさらされている.地球市民は非難を浴びせるばかりでなく,祈りを捧げる必要がある.



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