10/11マタイ福音書のイエス (第94回)~叱る預言者〜

2026年10月11日 主日礼拝
聖書講話 「マタイ福音書のイエス (第94回)~叱る預言者〜」
聖書箇所 マタイ福音書 11章20〜22節 話者 三上 章
[聖書協会共同訳]
下線は検討を要すると思われる部分
マタイ福音書 11章 20節 それからイエスは、数々の奇跡が行われたのに悔い改めなかった町を、叱り始められた。21 「災いあれ、コラジンよ。災いあれ、ベトサイダよ。お前たちのところでなされた奇跡が、ティルスやシドンで行われていれば、これらの町はとうの昔に粗布をまとい、灰をかぶって悔い改めたことだろう。
22 しかし、言っておく。裁きの日には、お前たちよりもまだティルスとシドンのほうが軽い罰で済む。
ガリラヤ地方と周辺

20 Τότε ἤρξατο ὀνειδίζειν τὰς πόλεις ἐν αἷς ἐγένοντο αἱ πλεῖσται δυνάμεις αὐτοῦ, ὅτι οὐ μετενόησαν ·
その時,彼(イエス)は叱責し始めた←諸ポリスを//←それらにおいて生じた←非常に多くの諸デュナミス(力)が←彼の.なぜなら,彼らは悔い改めなかったから.
20.1 「その時,彼(イエス)は叱責し始めた←諸ポリスを//それらにおいて生じた←非常に多くの諸デュナミス(力)が」
20.1.1 「その時」


浸礼者ヨハネとイエスが,反対者たちから中傷讒言を受けた時である.浸礼者ヨハネは,死海の少し北部のヨルダン川流域で宗教活動をしていたようである.その特徴は,社会倫理を矜持せよという主張であった.社会倫理を逸脱したガリラヤ地方領主とその不倫相手に対して,激しい弾劾を浴びせた.弾劾された人たちは,せせら笑い,不倫行動を改めるどころか,弾劾を根に持ち,不正にも,浸礼者ヨハネの首を刎ねた.
浸礼者ヨハネの実際の活動地
イエスの初期活動地


イエスは故郷のガリラヤ地方で,浸礼者ヨハネの宗教活動を継承する仕方で,活動を開始した.その特徴は,節制のある自由である.当時のユダヤ教徒たちは,細かい掟によって,不自由な生活を強いられていた.安息日には火を使う料理をしてはいけない.1マイル以上歩いてはいけない.夫の衣服を繕ってはいけない.歯が痛い子どもに,ビネガーを塗ってはいけない,などである.モーセの律法が定めた,安息日労働禁止の法律に違反するというのである.これを掟主義という.イエスは,掟主義の手かせ足かせを節度をもって緩めた.安息日であっても,病気に苦しむ人々に医療行為を行った.空腹であった学友たちが,麦の穂を摘むのを許した.徴税人や外国人との会食を楽しんだ,など.こういった一連の生活様式が,掟主義の主催者たちの逆鱗に触れた.彼らの怒りは,やがてイエスの磔刑をもたらした.
「その時」(トテ)は,含蓄の深いことばである.
20.1.2 「彼(イエス)は叱責し始めた」
不正を目の当たりにして見ぬふりをすることは,不正を是認することにつながる.イエスは不正を直視し,それを不正として叱責した.「叱責した」は「オネイディゾー」という強めの叱責である.
20.1.3 「諸ポリスを//それらにおいて生じた←非常に多くの諸デュナミス(力)が」
(1)「諸ポリス」
元来は,小高い丘の頂に営まれた城砦(じょうさい)を意味していた.やがて,都市国家に発展.小さな独立国家である.市民が軍事や政治に参加する仕組みをもつ.この仕組みが,イエスが生きたローマ帝国時代に継承された.ポリスは人が多く住む場所であるから,イエスは故郷の諸ポリスを中心に宗教活動を行った.
「諸ポリス」という表現にご注目.軍事・行政にかかわる用語である.イエスは軍事・行政を見る目を備えていた.軍人や為政者のあり方は,イエスにとって他人事ではなく,関心の的であった.軍事・行政が正しく運営され維持されてこと,ポリス市民の安寧は保持される.
(2)「それらにおいて生じた←非常に多くの諸デュナミス(力)が」
「生じた」(ギノマイ)は,人々によって目撃されたことを示す.「デュナミス」は,元来「力」「能力」の意味.何を指すのか?おそらく,イエスや学友たちが行った医療・看護の行為を指す.脳卒中の人,視覚障がいの人,聴覚障がいの人,精神障がいの人,の治癒など.病気の当事者と家族にとっては,まことにありがたいことである.それも一つ二つではなく,「非常に多くの諸デュナミス(力)が」である.
20.2 「なぜなら,彼らは悔い改めなかったから」
20.2.1 「なぜなら」
イエスが諸ポリスを叱責した理由である.
20.2.2 「彼らは悔い改めなかったから」
「悔い改める」は「メタノエオー」.悔いるだけではなく,改めるという行動が伴う.悔い改めなかった「彼ら」とは誰か?ポリスの為政者階級のひとたちであろう.彼らは庶民の健康の事案など,どこ吹く風.怠惰と豪奢の生活に浸っていた.
エルサレム神殿を根城とするユダヤ教指導者たちも,「彼ら」の中に含まれるであろう.彼らにとっても,庶民の健康の事案などどうでもよかった.ひたすら,イエスによる安息日の医療行為に目くじらを立てた.そういった庶民をないがしろにする人たちに対して,イエスは叱責した.
21 Οὐαί σοι, Χοραζίν · οὐαί σοι, Βηθσαϊδά · ὅτι εἰ ἐν Τύρῳ καὶ Σιδῶνι ἐγένοντο αἱ δυνάμεις αἱ γενόμεναι ἐν ὑμῖν, πάλαι ἂν ἐν σάκκῳ καὶ σποδῷ μετενόησαν.
ウーアイ←あなたに,コラジンよ.ウーアイ←あなたに,ベートゥサイダよ.なぜなら,テュロスとシドーンの中で生じたなら←諸デュナミス(力)が←生じた←あなたがたの中で,とっくに粗服と灰の中で悔い改めたでしょう.
21.1 「ウーアイ←あなたに,コラジンよ」
21.1.1 「ウーアイ←あなたに」
「ウーアイ」は,痛みや怒りを表す間投詞.誰かから石をぶつけられたとする.激しい痛み!相手に対して「ウーアイ」と叫ぶ.罵詈讒言を浴びせた相手に対して「ウーアイ」と叫ぶ.
21.1.2 「コラジンよ」


パレスティナの古代都市.町の重要性や歴史
など詳細は不明.最初に言及されるということは,イエスの活動の初期に訪れたポリスか?そこの為政者もシナゴーゲーの指導者たちも,イエスの叱責に耳を貸さなかったのであろう.
21.2 「ウーアイ,あなたベートゥサイダよ」
21.2.1 「ベートゥサイダ」
ヘロデ・フィリポスによって都市化され、ユリアスと改称されたと伝えられる.単なる漁村ではなく,ローマ時代の地方統治や都市化の流れを示す場所としても意味がある.ペテロ,アンデレ,フィリポの出身地.このポリスにおいても,イエスは重点的活動をおこなったのであろう.無視か拒絶の反応を受けた.
21.3 「なぜなら,テュロスとシドーンの中で生じたなら←諸デュナミス(力)が←生じた←あなたがたの中で」
21.3.1 「なぜなら」
「ウーアイ」という深い悲しみと憤りの理由.
21.3.2 「テュロスとシドーンの中で生じたなら」
「テュロス」はフェニキアの古代都市.商業都市として地中海世界各地に拠点を持ったばかりでなく,ヨルダン川流域に達する内陸にも勢力を伸ばした.前1世紀中頃はローマの属州シリアの州都とされた.「シドーン」は,古来,商業都市として繁栄し,シリア,パレスティナの内陸部への植民も行った.産業は巻貝からとれる深紅色染料を使った染色業のほか,前1世紀には世界で最初の吹きガラスの製造が行われたとされる.これら両ポリスは,ユダヤ人にガリラヤ地方に住むユダヤ人にとっては,ギリシア語を母語とする外国人の土地.イエスはテュロスやシドーンを比較的よいポリスだと見ていた節がある.「生じたなら」ということは,実際に生じたのではなく,架空の話であろう.
21.3.3 「諸デュナミス(力)が←生じた←あなたがたの中で」
イエスは同じ言葉を繰り返す.出来事を強調している.
21.4 「とっくに粗服と灰の中で悔い改めたでしょう」
ユダヤ人特有の悔い改めの所作.

22 πλὴν λέγω ὑμῖν, Τύρῳ καὶ Σιδῶνι ἀνεκτότερον ἔσται ἐν ἡμέρᾳ κρίσεως ἢ ὑμῖν.
念のため,わたしはあなたがたに言います.テュロスやシドーンのほうがより耐えやすいでしょう←審判の日には//←あなたがたよりも.

22.1 「ただし,わたしはあなたがたに言います」
22.1.1 「念のため」(プレーン)
イエスは念を押す.「アメーン」とほぼ同義.
22.1.2 「わたしはあなたがたに言います」
イエスは地元のコラジンとベートゥサイダに対して言う.
22.2 「テュロスやシドーンのほうが耐えやすいでしょう」
「耐えやすい」は,「アネクトス」(重圧などに耐える)の比較級.圧力がより軽くて住む.震度でいうと,7ではなくて2〜3というところか.
22.3 「審判の日には」
いつどのような仕方で起こるかわからない.不正な審判が数多く繰り返されても,最後には正しい審判がくだされる.これが正義を切望する人たちの願いである.
22.4 「あなたがたよりも」
コラジンとベートゥサイダの指導者たちは,襟を正さなければ成らない.



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