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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

6/30 ある知者の洞察(第34回)  〜〈正義〉とは何か?〜

2024年6月30日 主日礼拝

聖書講話   「ある知者の洞察(第34回)〜〈正義〉とは何か?」  

聖書箇所    コヘレトの言葉 5章7〜8節


[聖書協会共同訳]

     [下線は改善の余地があると私には思われる部分]

7 この州で貧しい者が虐げられ、公正と正義が踏みにじられるのを見ても、驚くな。/位の高い役人が見張り/その上にはさらに高い位の者たちがいるのだから。

8 何よりも国の益となるのは/王自らが農地で働くことである


 以下は,ヘブライ語とギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解.

ヘブライ語聖書はMTと略す.七十訳ギリシャ語聖書はLXXと略す.


7

אִם־עֹ֣שֶׁק רָ֠שׁ וְגֵ֨זֶל מִשְׁפָּ֤ט וָצֶ֨דֶק֙ תִּרְאֶ֣ה בַמְּדִינָ֔ה אַל־תִּתְמַ֖הּ עַל־הַחֵ֑פֶץ כִּ֣י גָבֹ֜הַּ מֵעַ֤ל גָּבֹ֨הַּ֙ שֹׁמֵ֔ר וּגְבֹהִ֖ים עֲלֵיהֶֽם׃

もし搾取を←貧者への,および強奪を←裁判・正義の/あなたが見るならば←ある地方で,あなたは驚いてはならない←その事柄のゆえに.なぜなら,或る上の人が或る上の人の上にいる←見張りとして.そして上の人たちが彼らの上にいる.


Ἐὰν συκοφαντίαν πένητος καὶ ἁρπαγὴν κρίματος καὶ δικαιοσύνης ἴδῃς ἐν χώρᾳ, μὴ θαυμάσῃς ἐπὶ τῷ πράγματι· ὅτι ὑψηλὸς ἐπάνω ὑψηλοῦ φυλάξαι καὶ ὑψηλοὶ ἐπʼ αὐτούς.

もし搾取を←貧者への,および強奪を←裁判・正義の/あなたが見るならば←ある地方で,あなたは驚いてはならない←その事柄のゆえに.なぜなら,ある上の人がある上の人の上にいる←見張るべく.そして上の人たちが彼らの上にいる.


7.1 ヘブライ語聖書(MT)とギリシア語訳(LXX)との比較

 MTとLXXはほぼ一致している.MTを主体として解明に努める.


7.2 「もし搾取を←貧者への,および強奪を←裁判・正義の/あなたが見るならば←ある地方で,あなたは驚いてはならない←その事柄のゆえに.」



7.2.1 「もし搾取を←貧者への,および強奪を←裁判・正義の」

 貧者の搾取.裁判・正義の強奪.たとえば,セレウコス朝シリアの時代,パレスティナに住むユダヤ人たちも,そういう仕打ちを受けた.アレクサンドロス大王の死後,前312年,後継者であったセレウコスがシリア王国を建設した.プトレマイオス朝エジプト,アンティゴノス朝マケドニアと共に,いわゆるヘレニズム三国という.いずれもギリシア人の王国.

 前175年,アンティオコス4世エピファネスがセレウコス王に即位し,ユダヤ人を強制的に同化させようと試みた.エルサレム神殿を占拠し,ギリシャの神ゼウスの祭壇を建てた.アンティオコス4世はユダヤ教を法律で禁止し,ギリシャの神々の信仰を義務づけた.

 そのやり方は残忍そのもの.ユダヤ人の歴史家ヨセフス(西暦37ころ~100ころ)によると,「(反体制派は)棒で打たれ,体を引き裂かれ,生きたまま十字架に張り付けられた・・・聖典や法律が見つかると,すべて破棄された.一緒にいた人々もむごたらしく殺された」(「古代誌」 xii 256)

7.2.2 ヨセフス

 ヨセフスについても,少しく見ておこう.


7.2.3 「あなたが見るならば←ある地方で」

 このような事態を,コヘレトも彼の聴衆も目の当たりにしていた.「ある地方で」という表現は,明言すると危険があったから,ぼかしたのかもしれない.

7.2.4 「あなたは驚いてはならない←その事柄のゆえに」

 「その事柄」は耐え難いものであるが,コヘレトは,驚愕して落ち着きを失わないようにと,聴衆に勧告する.怒りにまかせて,報復行為に走ってはならない.


7.3 「ある上の人がある上の人の上にいる←見張るべく」

7.3.1 「なぜなら」

 その理由をコヘレトは述べる.

7.3.2 「ある上の人がある上の人の上にいる」

 「お上」,すなわち王国の守護者が正義を行ってくれる,と聞こえる.果たしてコヘレトは本気でそう言っているのだろうか?そうではないと私は思う.皮肉の言葉としか思えない.

7.3.3 「見張るべく」

 王国の守護者の役割は,正義の見張り人であるべき,あるはずである.現実は,正義を歪曲している.自分たちの得になることが正義であり,他方,損をすることが不正である.搾取・抑圧される側にとっても同じことである.しかし,自分たちは弱者なので,言葉によって強者を非難する.不正だ,暴虐だ,と.

 猿のオスとメスがバナナを発見した場合,オスがそれを取る.

7.4 「そして上の人たちが彼らの上にいる」

 下の役人に聞いてもらえないならば,上の役人に訴えればよいではないか,と人は言う.もっともな話ではある.ぜひやって見るべきである.聞き入れてもらえる場合もある.しかし,いつも聞き入れてもらえるとはかぎらない.

たとえば,冤罪の事案(false conviction).


8

וְיִתְרֹ֥ון אֶ֖רֶץ בַּכֹּ֣ל ה֑יּא* מֶ֥לֶךְ לְשָׂדֶ֖ה נֶעֱבָֽד׃

そして利得←大地の/あらゆるものの中で/・・・.彼女(大地)は王として,農牧地のために耕される.


καὶ περισσεία γῆς ἐν παντί ἐστι,  βασιλεὺς τοῦ ἀγροῦ εἰργασμένου.

そして利得は←大地の/あらゆるものの中にある.王←耕された耕地の.


8.1 ヘブライ語聖書(MT)とギリシア語訳(LXX)との比較

 後半が一致しない.MTの意味が極めて不明なので,LXXは解明に苦労したであろうことが推定される.お手上げです,のような翻訳になっている.テキストが絶望的に破損しており,意味をなさない.それでも,あえてMTを主体として語句の解明を試みよう.


8.2 「そして利得←大地の/あらゆるものの中で/・・・」

8.2.1 「そして」

 前節に続くのか?続かないのか?続くと仮定して,解明を試みる.

8.2.2 「・・・」

 述語がない.何を補うべきか?「一番である」「最高である」あたりが,妥当ではないかと思われる.

8.2.3 「利得←大地の/あらゆるものの中で」

 「利得」すなわち善いもの.人間にとっての善いものとして考えられるのは,食料のための穀物や動物,家屋のための木や石,衣服のための麻や綿.何といっても一番善いものは,穀物や動物であろう.それらは大地がもたらす恵みである.ところが,いつでも順調に食料が入手できるかといえば,けっしてそうではない.順調な食料入手は,災害が戦争によって阻まれる.しかも,食料飢饉の多くは戦争によって引き起こされる.人災である.国王の国政と外交のあり方が,厳しく問われなければならない.


8.3 「彼女(大地)は王として,農牧地のために耕される」

8.3.1 「彼女(大地)」

 「ヒー」は「彼女」.それでは解釈に困るので,「הוא フー」(彼)と読み替える学者もいる.そうすると,「王」を指すことになる.しかし,「王が・・・耕された」となり,辻褄が合わない.私のように「ヒー」(彼女)と読むなら,「大地」を指すことになる.「大地」は女性名詞.

8.3.2 「王(として)」

 (として)は私の付加である.他でもなく「大地」(アレッツ」こそは王なのである,と解明するとまではいかないが,少なくともそのように解釈することができる.国土の王は国王であると,一般に思われているが,それは誤りである.本当は,大地が王なのであり,いわゆる国王は大地に,さらに言えば,大地の住民に服従しなければならない.

8.3.3 「農牧地のために」

 大地は何のためにあるのか? 「農牧地」(サーデー)のためである.軍事施設のためではない.原子力発電所のためでもない.

8.3.4 「耕される」(ネエバード)

 「ネエバード」は「アーバード」(「働く」「耕す」「仕える」)のニファル形.「耕される」と訳すのが妥当である.「耕される」は「奉仕される」という意味を分かちもつ.要するに,「世話をされる」ということ.



 世話をされないと,美しい大地は荒れ地になってしまう.とても王とは言えない,みすぼらしい姿に成り下がってしまう.

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