第10回 『詩編』を味わう 交差配列法(キアスムス)
日髙嘉彦
今回はヘブライ詩において代表的な修辞法である「交差配列法」(キアスムス)を紹介します。これは「交差」を意味するギリシャ語のχίασμα に由来します。この構造は、前回紹介した並行法におえてみられ、対となった最初の句の最初の要素と最後の要素の位置が、2番目の句では逆転し、最後の要素が最初に、最後の要素が最初に配置されることで、対称的になります。
例えば詩編19編2節(私訳)をその要素の順に並べると以下のようになります。
天は A
書きとどめる B
エル(神)の栄光を C
彼の両手の業を C’
報告する B‘
空は A‘
これをみると最初の「天は・書きとどめる・エル(神)の栄光を」と二番目の「彼の両手の業を・報告する・空は」が対照的であることが分かります。さらに対応関係に注目すると、主語の「天は」(A)と「大空は」(A’)は意味もほぼ同じで対となっており、全体のフレーム(額縁)を構成します。次の動詞「書きとどめる」(B)と「報告する」もほぼ意味が同じで、中心に位置する目的語「エルの栄光を」(C)と「彼の両手の業を」(C’)を囲い込んでいます。そこで、全体としてみるとき中心のC、C`に重心があることが分かります。
このように交差配列法は、ともすると単調になりがちな並行法にリズムをあたえ、また詩人がどの意味の中心を知ることができます。
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