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12/28 マタイ福音書のイエス (第62回)~〈ダイモニア憑きと豚たち〉の伝承解釈〜

  • 執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル
    平岡ジョイフルチャペル
  • 22 時間前
  • 読了時間: 9分

2025年12月28日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第62回)

       ~〈ダイモニア憑きと豚たち〉の伝承解釈〜

聖書箇所    マタイ福音書 8章28〜34節   話者 三上  章


      [聖書協会共同訳]  

        ※下線は修正の余地があると思われる部分

28 イエスが向こう岸のガダラ人の地方に着かれると、悪霊に取りつかれた者が二人、墓場から出て来て、イエスに会った。二人はひどく狂暴で、誰もその辺りの道を通れないほどであった。29 突然、彼らは叫んだ。「神の子、構わないでくれ。まだ、その時ではないのにここに来て、我々を苦しめるのか。」 30 ところで、そこからずっと離れた所におびただしい豚の群れが飼ってあった。31 そこで、悪霊どもはイエスに、「我々を追い出すのなら、あの豚の中にやってくれ」と願った。32 イエスが、「行け」と言われると、悪霊どもは二人から出て、豚の中に入った。すると、豚の群れはみな崖を下って湖になだれ込み、水に溺れて死んだ。33 豚飼いたちは逃げ出し、町に行って、悪霊に取りつかれた者たちのことなど一切を知らせた。34 すると、町中の者がイエスに会いに出て来た。そして、イエスに会うと、その地方から出て行ってもらいたいと言った


 以下は原文の解明に基づく三上の語順訳と講解です.


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28 Καὶ ἐλθόντος αὐτοῦ ⸃ εἰς τὸ πέραν εἰς τὴν χώραν τῶν Γαδαρηνῶν ὑπήντησαν αὐτῷ δύο δαιμονιζόμενοι ἐκ τῶν μνημείων ἐξερχόμενοι, χαλεποὶ λίαν ὥστε μὴ ἰσχύειν τινὰ παρελθεῖν διὰ τῆς ὁδοῦ ἐκείνης.

そして,彼が来た後←対岸の中へ←ガダラ人たちの地方の中へ,彼(イエス)に出会った←二人のダイモニア憑きの男性たちが/墓場の中から出て来た.非常に危険であり,誰かがあの道を通りすぎることができないほどであった.

28.1 おさらい

 イエスと志の高い学友たちは,伝道の拠点カパルナウムから,ガリラヤ湖対岸のギリシア人たちの土地へと伝道に打って出る.

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28.2 「彼が来た後←対岸の中へ←ガダラ人たちの地方の中へ,彼(イエス)に出会った←二人のダイモニア付きの男性たちが」

28.2.1 「彼が来た後←対岸の中へ←ガダラ人たちの地方の中へ」

 イエスの一行は,湖対岸に到着した後,ガダラ人たちの地方の中に突入していった.その地方の範囲を特定することができないが,その中心はデカポリス(10のポリス)を中心とする都会である.ギリシアの文化と宗教が浸透していた地域であると推定される.

そこの住民は,ユダヤ人であるイエス一行とは異なる.新しく興ったユダヤ教の一派が,ギリシャ人たちを平和な手段で攻撃するという構図である.まずは町外れでの出来事である.

28.2.3 「彼(イエス)に出会った←二人のダイモニア憑きの男性たちが」

 イエスの方から出会ったのではなく,「二人のダイモニア憑きの男性たち」の方からイエスに出会った.イエスの求心力を感じさせる.「ダイモニア憑きの男性たち」は,これから伝道に赴く地域の人たちを少々するかのような表現である.「ダイモニア」は,ギリシア人にとって「ダイモーン神に属することども」を意味する,言わば神霊を意味する.それらは,ソクラテスにとって善いものであった.他方,ユダヤ人にとってそれらは「汚れた霊ども」を意味する.ここでは,ヘレニズムに対するヘブライズムの優越意識が反映されている.

28.3 「墓場の中から出て来た」

 ユダヤ教イエス派から見れば,ギリシア人は墓場の中の死者のようなものである.生きていると言うに値しない.

28.4 「非常に危険であり,誰かがあの道を通りすぎることができないほどであった」

28.4.1 「非常に危険であり」

 福音書記者マタイは,ギリシア人が非常に手ごわい相手であることを知っている.

28.4.2 「誰かがあの道を通りすぎることができないほどであった」

 「あの道」というのは,ポリスの中に通じる道と見ることができる.悪霊憑きの男性は一人ではなく,二人である.二人の方がより強力である.二人は,ガダラ人たちにとって,いわば防人の役割を果たしていた.ギリシア人はギリシア人なりに,外来の宗教の侵略を防御しなければならなかった.

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29 καὶ ἰδοὺ ἔκραξαν λέγοντες · Τί ἡμῖν καὶ σοί, υἱὲ τοῦ θεοῦ; ἦλθες ὧδε πρὸ καιροῦ βασανίσαι ἡμᾶς;

そして,見よ!彼らは叫んで言った.「何がわれわれとあなたにとってありますか?神の息子よ.あなたはここに来たのですか?←時間前にわれわれを拷問するために」

29.2 「そして,見よ!彼らは叫んで言った」

29.2.1 「見よ!」(イドゥー)

 32節と34節にも出てくる.語り手は聴衆の関心を引きつけ,臨場感を与える.

29.2.2 「彼らは叫んで言った」

 どのような叫びか?おそらく絶望の叫び.

29.3 「何がわれわれとあなたにとってありますか?神の息子さん,あなたはここに来たのですか?←時間前にわれわれを拷問するために」

29.3.1 「何がわれわれとあなたにとってありますか?」

 「何がわれわれとあなたにとってありますか?」は,関係がない,共通点がない,対立しているという意味.干渉しないでくれ,ちょっかいを出さないでくれ,ということ.

29.3.2 「神の息子よ」

 「ヒュイオス・トゥー・テウー」は.マタイ教会のイエス観である.マタイ教会のクリスチャンたちは,イエスを神の息子,主なる救い主と信じていた.そのイエス観が,ダイモニア憑きの男性たちの口を借りて表明されている.キリスト教の神のほうが,ギリシア・ローマ宗教の神々より強大であることを認めさせようとしている.

29.3.3 「あなたはここに来たのですか?←時間前にわれわれを拷問するために」

 ガダラ地方のギリシア人たちにとっては,イエス一行の到来は,いわば蒙古襲来である.「時間前に」は,予期しない時にという意味.寝込みを襲われたという感じ.「拷問する」は,当時の戦争を彷彿とさせる.敗者は,町を焼かれ,拷問にかけられ,ことごとく殺害されるのが,普通であった.自分たちの宗教を滅ぼさないでほしいという,ギリシア人の気持ちが反映している.キリスト教と日本の関係について言えば,キリスト教を日本に伝えようと意気込む外国勢力は,日本中がキリスト教になれば大万歳ということだろうが,日本にしてみればそうではない.日本特有の古神道,仏教,儒教は尊重してもらわなければならない.」


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30 ἦν δὲ μακρὰν ἀπ’ αὐτῶν ἀγέλη χοίρων πολλῶν βοσκομένη.

彼らから遠くに,豚の大群が飼育されていた.

30.1 「彼らから遠くに」

 場面は,ダイモニア憑きの男性がいた墓場から,遠く離れた放牧地に転換する.

30.2 「豚の大群が飼育されていた」

 ユダヤ人にとって豚は禁忌の家畜であった.他方,ギリシア人にとって豚はお好みの家畜であった.かつてギリシア軍によるパレスティナ侵攻により,マカバイ戦争(紀元前167年 – 紀元前160年)が勃発した.その初期にエルサレム神殿が占領され,その中にゼウス神像が安置された.そして,豚を犠牲獣としてささげる祭壇が設置され,供犠が行われた.それほどまでに豚はギリシア人にとって神聖な家畜であった.他方,ユダヤ人にとって豚は汚れた家畜であった.彼らにしてみれば,ギリシア人は「豚の大群」であった.残念ながら,現代でも,ギリシア敵視はそこかしこのキリスト教にうごめいている.


31 οἱ δὲ δαίμονες παρεκάλουν αὐτὸν λέγοντες · Εἰ ἐκβάλλεις ἡμᾶς, ἀπόστειλον ἡμᾶς ⸃ εἰς τὴν ἀγέλην τῶν χοίρων.

ダイモーンたちは彼(イエス)に懇願して言った.「われわれを追い出そうとしているなら,われわれを追放してください←豚の群れの中へ」

31.1 「ダイモーンたちは彼(イエス)に懇願して言った」

31.1.1 「ダイモーンたち」

 ダイモニア憑き男性たちのダイモニアどもとは,別である.ダイモーンは,ダイモニアどもの親分ダイモーンは,本来,「超自然的な霊的存在」「神」を意味した.やがて人間の幸福・不幸を司る神に,意味が転換した.そのギリシア人にとって聖なる神々を,マタイ教会は忌み嫌った.わたしが二十歳前後の頃,福音派の外国人宣教師たちから,地蔵を拝んではならない,日光東照宮に行ってはならない,悪霊が憑くから,と教えられた.それから数十年後,その一人にお会いした.相変わらず,ハリー・ポッターを観てはいけません,悪霊が憑くから,と50歳のわたしは言われた.

31.1.2 「彼(イエス)に懇願して言った」

 ダイモーンたちは,イエスに対して劣勢である.無条件降伏の姿勢である.

31.2 「われわれを追い出そうとしているなら,われわれを追放してください←豚の群れの中へ」

31.2.1 「われわれを追い出そうとしているなら」

 ギリシア人がユダヤ人に,どうぞ追い出してください,と言っている.ギリシアの宗教も文化も教養も放棄します.ユダヤ・キリスト教一色に染めてください,と言わんばかりである.

31.2.2 「われわれを追放してください←豚の群れの中へ」

 ギリシア人をして国外追放を懇願させている.行き先は「豚の群れ」,どこかギリシア人の領地.かつてあったように,ユダヤ人は出て行け.今もあるように,パレスティナ人は出て行け,と似ている.


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32 καὶ εἶπεν αὐτοῖς · Ὑπάγετε. οἱ δὲ ἐξελθόντες ἀπῆλθον εἰς τοὺς χοίρους ⸃· καὶ ἰδοὺ ὥρμησεν πᾶσα ἡ ἀγέλη κατὰ τοῦ κρημνοῦ εἰς τὴν θάλασσαν, καὶ ἀπέθανον ἐν τοῖς ὕδασιν.

そして,彼は彼らに言った.「出て行きなさい」.彼らは出て行った後,豚たちの中に離れ去った.そして,見よ!突進した←その群れ全体が/崖を下って,その海の中へ.そして彼らは死んだ←水の中で.

32.1 「そして彼は彼らに言った.「出て行きなさい」」

 「出て行きなさい」という言葉.今日のシリア難民やミャンマーのロヒンギャを思う.かつてのベトナム難民やカンボジア難民を思う.

32.2 「彼らは出て行った後.豚たちの中に離れ去った」

 追い出した側は,胸がスーとしたであろう.

32.3 「そして,見よ!突進した←その群れ全体が/崖を下って,その海の中へ.そして彼らは死んだ←水の中で」

 アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の酷い仕打ちを思わざるをえない.


33 οἱ δὲ βόσκοντες ἔφυγον, καὶ ἀπελθόντες εἰς τὴν πόλιν ἀπήγγειλαν πάντα καὶ τὰ τῶν δαιμονιζομένων.

飼育している人たちは逃げた.そして離れ去った後←そのポリスの中に,報告した←すべてのこととダイモニア憑きの男性たちのことどもを.

33.1 「飼育している人たちは逃げた」

 キリスト教という強敵を前に,敗走する非キリスト教の姿.

33.2 「そして離れ去った後←そのポリスの中に,報告した←すべてのこととダイモニア憑きの男性たちのことどもを」

33.2.1 「そして離れ去った後←そのポリスの中に」

 戦争で領土を次々に占領された現状が,首都に報告されたという印象.ロシアによる北方領土の不法占拠を思う.

33.2.2 「報告した←すべてのこととダイモニア憑きの男性たちのことどもを」

 「報告した」.誰にか?ポリスの指導者にであろう.何を報告したのか.「すべてのこととダイモニア憑きの男性たちのことどもを」.海になだれ落ちた豚の大群と,遡ってダイモニア憑きの男性のこと.このくだりは,文脈が錯綜している.


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34 καὶ ἰδοὺ πᾶσα ἡ πόλις ἐξῆλθεν εἰς ὑπάντησιν τῷ Ἰησοῦ, καὶ ἰδόντες αὐτὸν παρεκάλεσαν ὅπως μεταβῇ ἀπὸ τῶν ὁρίων αὐτῶν.

そして,見よ!全ポリスが出て来た←イエスに会うために.そして,イエスを見た後,懇願した←移動するように←彼らの領域から.

34.1 「そして,見よ!全ポリスが出て来た←イエスに会うために」

34.1.1 「全ポリス」

 大げさな表現.実際は,ポリスを代表する防衛関係の役人たちであろう.

34.2 「そして,イエスを見た後,懇願した←移動するように←彼らの領域から」

 1612年(慶長17年)及び翌1613年に,江戸幕府が発令したキリスト教禁止令を思わさせる.イエス一行は,ギリシア人にも本物の宗教を伝えてあげようと,彼らの領地に突入したが,必要とされなかった.ギリシア人は,自分の宗教で満足していた.マタイ教会の伝道も,同じような情況に直面したでのであろう.


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