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7/6 マタイ福音書のイエス (第44回)~〈蓄財の意味〉を考察する〜

  • 執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル
    平岡ジョイフルチャペル
  • 20 時間前
  • 読了時間: 5分

2025年7月6日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第44回)

       ~〈蓄財の意味〉を考察する〜」

聖書箇所    マタイ福音書 6章19〜21節   話者 三上  章


      [聖書協会共同訳]  

        ※下線は修正の余地があると思われる部分

19 「あなたがたは地上に宝を積んではならない。そこでは、虫が食って損なったり、盗人が忍び込んで盗み出したりする。20 宝は、天に積みなさい。そこでは、虫が食って損なうこともなく、盗人が忍び込んで盗み出すこともない。21 あなたの宝のあるところに、あなたの心もあるのだ。」

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 以下は原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


19 Μὴ θησαυρίζετε ὑμῖν θησαυροὺς ἐπὶ τῆς γῆς, ὅπου σὴς καὶ βρῶσις ἀφανίζει, καὶ ὅπου κλέπται διορύσσουσιν καὶ κλέπτουσιν ·

あなたがたは貯えることを止めなさい/あなたがたのために/諸財産を/地上に.そこでは衣類害虫と虫食いが(財産)を台無しにしています.そして,そこでは盗人たちが壁を打ち破っています.そして盗んでいます.


19.1 「あなたがたは貯えることを止めなさい/あなたがたのために/諸財産を/地上に」

19.1.1 「あなたがたは・・・あなたがたのために」

 イエスは誰に向かって語っているのか?学友たちに向かってか?彼らは出家した人たち.無一文である.彼らではない.マタイ共同体の観点から考えたほうがよい.彼らの中には,富裕な人たちもいたであろう.あるいは,マタイ共同体と競合していたユダヤ教共同体の中にも,富裕な人たちがいたであろう.

19.1.2 「あなたがたは貯えることを止めなさい」と言われている人たちは,社会経済的階層においては,恵まれた人たちである.当時においても,一つの安硬貨さえ貯えることができない貧困な人たちが,大勢いた.はたして福音書記者マタイの眼差しは,そういう人たちにも向けられていたのだろうか?

19.1.2 「諸財産」

 「財産」と訳した「テーサウロス」は,動詞形「テーサウリゾー」の名詞形.「財産」とは何か?古代ギリシア・ローマ人にとって,良質の羊毛生地は宝物であった.ギリシアのキトンやペプロス,ローマのトガ,トゥニカなども毛織物だった.

19.1.3 宝物庫 

それらは宝物庫に貯えられた.

 英雄イアソンと黄金の羊毛皮

19.1.3 「地上に」

 後に出てくる「天の中で」の対義語.地対天の二分法的思考は,福音書記者マタイの特徴.地上は良くないが,天の中は良い.マタイは地上の現実に関心がない.天の虚構・妄想に夢遊していた.


19.2 「そこでは衣類害虫と虫食いが(財産)を台無しにしています」

19.2.1 「衣類害虫と虫食い」

 「衣類害虫」と訳した「セース」は,動物性繊維を好む害虫をさすと考えられる.「虫食い」と訳した「ブローシス」の原義は,「食べること」.ここでは「虫食い」ということになる.

19.2.2 「台無しにしています」

 「台無しにしています」と訳した「アパニゾー」は,「隠す」「取り去る」「取り除く」が原義.そこから「盗む」「だめにする」「持ち逃げする」「台無しにする」という意味が派生する.

19.2.3 衣類害虫は動物性繊維を好む

 衣類害虫は動物性繊維を好む.モヘヤ: アンゴラ山羊の毛からとれる繊維. カシミヤ: カシミヤ山羊の毛からとれる繊維.  キャメル: ラクダの毛からとれる繊維. アンゴラ: アンゴラウサギの毛からとれる繊維. アルパカ: アルパカの毛からとれる繊維. 衣類害虫がもっとも好む動物繊維は「羊毛(ウール)」


19.3 「そして,そこでは盗人たちが壁を打ち破っています.そして盗んでいます」

19.3.1 「盗人」

 今日のイタリアでも,たとえばローマやナポリなどでは盗人は多い.当時も大勢の盗人がいたとしても不思議ではない.

19.3.2 「壁を打ち破っています」

 「壁を打ち破っています」と訳した「ディオリュッソー」は,盗みを目的として「れんがの壁を打ち破る」という用例が古典ギリシア語の文献に見られる.


20 θησαυρίζετε δὲ ὑμῖν θησαυροὺς ἐν οὐρανῷ, ὅπου οὔτε σὴς οὔτε βρῶσις ἀφανίζει, καὶ ὅπου κλέπται οὐ διορύσσουσιν οὐδὲ κλέπτουσιν ·

あなたがたは貯えていなさい/あなたがたのために/諸財産を/天の中で.そこでは衣類害虫も虫食いも台無しにしていません.そしてそこでは盗人たちは壁を打ち破っていません.また盗んでいません.

20.1 「天の中で」

 福音書記者は,財産を預けるべき場所として,「天の中」を提言する.「天」は「ウーラノス」.英語では「ヘブン」.最高に善い神が住む場所である.「空」(スカイ)ではない.問題は,「天」は実在するのか?仮に実在するとして,どこに存在するのか?さらなる問題は,「天」のどこに財産を預けるのか?「あおぞら銀行」は,天には存在しない.それでは天国銀行なるものが天に存在するのか?福音書記者マタイは,これらの質問に答えなければならない.


21 ὅπου γάρ ἐστιν ὁ θησαυρός σου, ἐκεῖ ἔσται καὶ ἡ καρδία σου.

なぜなら,在る場所←あなたの財産が,そこに在るでしょう←あなたの心も.


21.1 「在る場所←あなたの財産が」

 文脈の観点からは,天に財産を貯えるというのだから,その場所は「天」(ウーラノス)

ということになる.

21.2 「そこに在るでしょう←あなたの心も」

21.2.1 「そこに在るでしょう」

 「在るでしょう」(エスタイ)は,未来時称.「今ここで」ではなく「いつか将来どこかで」とあやふやな表現.あなたは天に行くことができるかもしれませんよ,という気休め・安請け合いの言葉.何をどうしたら天に行くことができるかについては,マタイは何も語らない.しかし,含むところはありそうだ.

21.2.2 「心」

 「心」についてもう少し検討してみよう. 「心」と訳した「カルディア」は,「心臓」が原義.そこから「(感情・情念の座としての)「心」という意味が派生する.福音書記者マタイは,「天」とは「あなたの心」だという.これまた,非論理的な飛躍!「天」とは「心」だというならば,「あなたの心」が「財産」を預ける場所ということになる.私の心という場所のどこに,世界一どころか宇宙一安全な銀行が存在するのか?そもそも私の心とは何か?それは恒常不変なものなのか?私が死んだ後も,私の心は存在しづけるのか?

 マタイは何一つ答えることができない.次元の異なる質問だからである.マタイの次元は,マタイ共同体という宗教的次元に限定されている.マタイ共同体こそは世界であり,天である.そこに心をひたすら向けることこそが,天の中に財産を貯えることなのだ.具体的には,共同体への惜しみなき財産寄進,共同体における献身的な奉仕,そして共同体の拡張・拡大のための布教ということになるであろう.小さいことだと言えばそれまでだが,共同体の中に生きるクリスチャンたちにとっては,そして私にとっても,大きなことではある.

 
 
 

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