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  • 執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

1/21 ある知者の洞察(第30回)〜 〈コヘレトの敬神〉を吟味する

2024年1月21日 主日礼拝

聖書講話   「ある知者の洞察(第30回)〜〈コヘレトの敬神〉を吟味する」  

聖書箇所    コヘレトの言葉 4章17節〜5章2節

 


 [聖書協会共同訳]

     [下線は改善の余地があると私には思われる部分]

4:17 神殿に行くときには、足に気をつけなさい。/聞き従おうと神殿に近づくほうが/愚かな者がいけにえを献げるよりもよい。/彼らは知らずに悪事に染まるからだ。

5:1 神の前に言葉を注ぎ出そうと/焦って口を開いたり、心をせかしたりするな。/神は天におられ、あなたは地上にいるからだ。/言葉を控えよ。 52 仕事が増えれば夢を見/言葉が増せば愚かな者の声になる。

  •    

 以下は,ヘブライ語とギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解.

上は,ヘブライ語聖書(MTと略す).下は,七十訳ギリシャ語聖書(LXXと略す).


שְׁמֹ֣ר רַגְלְיךָ֗* כַּאֲשֶׁ֤ר תֵּלֵךְ֙ אֶל־בֵּ֣ית הָאֱלֹהִ֔ים וְקָרֹ֣וב לִשְׁמֹ֔עַ מִתֵּ֥ת הַכְּסִילִ֖ים זָ֑בַח כִּֽי־אֵינָ֥ם יוֹדְעִ֖ים לַעֲשֹׂ֥ות רָֽע׃

警戒しなさい←あなたの足を/時←あなたが行く←神の家へ.そして近づくこと(or 近づきなさい)←[神の意思を]聞くために/よりも←与えること←愚者たちが犠牲獣を.なぜなら彼らは知らない/について←行うこと←悪を.


4.17 Φύλαξον πόδα σου, ἐν ᾧ ἐὰν πορεύῃ εἰς οἶκον τοῦ θεοῦ, καὶ ἐγγὺς τοῦ ἀκούειν· ὑπὲρ δόμα τῶν ἀφρόνων θυσία σου, ὅτι οὔκ εἰσιν εἰδότες τοῦ ποιῆσαι κακόν.

警戒しなさい←あなたの足を/時←もしあなたが行く←神の家へ.そして近く[あれ]←[神の意思を]聞くために.よりも上[である]←与える物←愚者たちの/あなたの犠牲獣が.なぜなら彼らは知らない/について←行うこと←悪を.


17.1 「警戒しなさい←あなたの足を」

 「あなたの足」は,ヘブライ的誇張法.部分で全体を表す.あなた自身ということ.特に歩く仕方,歩く姿勢,心の姿勢,心のあり方.あるいは,足しげく通うこと.あるいはまた,当時,走って行くのが流行であったかもしれない.いずれにせよ,無思慮や不敬神を戒めている.

17.2 MT:「時←あなたが行く←神の家へ」 LXX:「時←もしあなたが行く←神の家へ」

17.2.1 「もしあなたが行く」

 LXXの「もし」は,軽率を戒める「もし」か.

17.2.2 「神の家」

 神殿のこと.おそらくユダヤ教の神殿.あるいは,ユダヤ教のシナゴーグ(集会所).他方,非ユダヤ教徒にとっては,彼らが信奉する神々の神殿ということになる.ギリシャではゼウス神殿,アポロ神殿,アルテミス神殿,ローマではユッピテル神殿,ミネルウァ神殿,ディアナ神殿など.

17.3 MT:「そして近づくこと(or 近づきなさい)←[神の意思を]聞くために/よりも←与えること←愚者たちが犠牲獣を」

 LXX: 「そして近く[あれ]←聞くために.よりも上[である]←与える物←愚者たちの/あなたの犠牲獣が

17.3.1 LXXは意訳.わかりやすくしようとしている.ただし,わかりやすいから正しいとはかぎらない.本文批評学の見地からすると,わかりにくい読みのほうが本来の読みに近いと判断する.

17.3.2 MT: 「近づくこと(or 近づきなさい)」

 不定詞形と命令形は,同形.不定詞ならば「近づくこと」となるし,命令形なら「近づきなさい」となる.意味に大差はない.神殿は神の住む家.訪問する目的に留意せよと言っている.

17.3.3 「[神の意思を]聞くために」

 原文は単に「聞くために」である.「神の意思を」を補足した.神のお宅を訪問する目的は,神の意思を伺うことである.

17.3.4 MT: 「よりも←与えること←愚者たちが犠牲獣を」

 「よりも」は比較を表す.与えることよりも何であるというのか?おそらく,神の意思を伺うことのほうが,ということであろう.「愚者たち」とは,敬神をもたない人たちであろう.すなわち,神と取引をする人たち,神に賄賂を贈る人たち,神を儲けの手段とする人たちなど.つまり,不敬神より敬神が[…]と言っている.[…]に補足する語としては,「よい」「まさる」が考えられる.LXXはその線に沿って,「よりも上[である]」(ヒュペル)と訳している.

17.3.5 LXX: 「よりも上[である]←与える物←愚者たちの/あなたの犠牲獣が」

 不敬神の人たちの与える物に対して,敬神の人であるべき「あなたの犠牲獣」が対比されている.「あなたの犠牲獣」(単数形)は,敬神を指さす.

17.4 「なぜなら彼らは知らない/について←行うこと←悪を.」

17.4.1 「彼らは知らない」

 無知ということ.愚者はあまりにも愚かなので,自分の愚かさを知らない.不敬神な人はあまりにも不敬神なので,自分の不敬神を知らない.

17.4.2 「について←行うこと←悪を」

 「について」と訳したヘブライ語は「レ」という前置詞.「〜へ」,「〜の方へ」,「〜に属する」,「〜について」,「〜に従って」などの意味で用いられる.ここでは「〜について」を採用した.何が不敬神であり何が敬神であるかを見分けることができない,という意味になる.

 

אַל־תְּבַהֵ֨ל עַל־פִּ֜יךָ וְלִבְּךָ֧ אַל־יְמַהֵ֛ר לְהוֹצִ֥יא דָבָ֖ר לִפְנֵ֣י הָאֱלֹהִ֑ים כִּ֣י הָאֱלֹהִ֤ים בַּשָּׁמַ֨יִם֙ וְאַתָּ֣ה עַל־הָאָ֔רֶץ עַֽל־כֵּ֛ן יִהְי֥וּ דְבָרֶ֖יךָ מְעַטִּֽים׃

急ぐな←あなたの口の上に(or について)/そしてあなたの心をせかすな/引っ張り出すために←言葉を/神の面前で.なぜならその神は諸天の中にいる.そしてあなたは地の上にいる.それゆえ,あるべし←あなたの言葉は⇦少なく.


5.1 μὴ σπεῦδε ἐπὶ στόματί σου,  καὶ καρδία σου μὴ ταχυνάτω † τοῦ ἐξενέγκαι λόγον πρὸ προσώπου τοῦ θεοῦ·  ὅτι ὁ θεὸς ἐν τῷ οὐρανῷ, καὶ σὺ ἐπὶ τῆς γῆς, †ἐπὶ τούτῳ ἔστωσαν οἱ λόγοι σου ὀλίγοι.

急ぐな←あなたの口の上へ/そしてあなたの心をせかすな/引っ張り出すために←言葉を/神の面前で.なぜならその神は諸天の中にいる.そしてあなたは地の上にいる.それゆえ,あるべし←あなたの言葉は⇦少なく.


1.1 MTはMTにすべて一致している.

1.2 「急ぐな←あなたの口の上に(or について)」

 「へ」と訳した「アル」の原義は,「〜の上に」.他に,「〜へ」,「〜の方へ」,「〜に対して」,「〜のゆえに」,「〜に従って」の意味で用いられる.ここでは「〜の上に」を採用した.「口の上に急ぐな」とはおそらく,性急に口に出すな,という意味.口が軽い人への戒め.

1.3 「あなたの心をせかすな/導き出すために←言葉を/神の面前で」

1.3.1 「あなたの心をせかすな」

 性急に口に出すなの対句.性急な言葉は性急な心から出てくる.

1.3.2 「引っ張り出すために←言葉を」

 言葉は無理やり引っ張り出すものではない.心から自然にあふれ出るものであるべきである.良い言葉にせよ悪い言葉にせよである.良い言葉は良い心から,悪い言葉は悪い心からあふれ出る.

1.3.3 「神の面前で」

 ましてや,神の面前では軽率な言葉を慎むべきである.時代劇風に言えば,面を上げよ,申してみよという殿様の許可を得てから,語るということ.

1.4 「なぜならその神は諸天の中にいる.そしてあなたは地の上にいる」

1.4.1 「その神」

 神を意味する「エロヒーム」に「ハ」(「その」)という定冠詞が付いている.特定の神.ユダヤ人にとっては「ヤハウェ」.ギリシャ人にとっては「ゼウス」.ペルシャ人にとっては「アフラ・マズダー」.古代日本人にとっては「天照大神」.

1.4.2 「諸天」

 「天」は複数形.ユダヤ教聖書の神観に影響を与えた古代メソポタミア文化においては,天は天蓋の階層として表象され,最上部の天蓋に最高神が住むと考えられていた.

1.4.3 「あなたは地の上にいる」

 「あなた」とは人間のこと.人間の身分と神の地位とは隔絶していると言っている.人間にとって神は近寄りがたい存在だと言う.

1.5 「それゆえ,あるべし←あなたの言葉は⇦少なく」

 プラトンは『国家』の中で,全知の神は人間の心を見抜いているから,人間はくどくどと神に願う必要はない.いや,そもそも祈るべきではない.そう言って,長ったらしい祈りを戒めている.


כִּ֛י בָּ֥א הַחֲלֹ֖ום בְּרֹ֣ב עִנְיָ֑ן וְקֹ֥ול כְּסִ֖יל בְּרֹ֥ב דְּבָרִֽים׃

なぜなら,来るものだ←その夢(or 夢というもの)は/の中で←多さの←仕事の.そして[来る←]声(or 声というもの)は←愚者の/の中で←多さの←言葉の.


5.2 ὅτι παραγίνεται ἐνύπνιον ἐν πλήθει περισπασμοῦ καὶ φωνὴ ἄφρονος ἐν πλήθει λόγων.

なぜなら,来る←夢は/の中で←多さ←仕事の.そして[来る←]声(or 声というもの)は←愚者の/の中で←多さ←言葉の.


2.1 MTとLXXはほぼ一致している.先行する箇所とのつながりはない.格言風の文言.おそらく「言葉」つながりで,キャッチワードとして取ってつけた文言.

2.2 「来るものだ←その夢(or 夢というもの)は/の中で←多さの←仕事の」

2.2.1 「来るものだ」

 完了形.格言的完了ととるなら,こういう訳になる.

2.2.2 「その夢(or 夢想というもの)は」

 MTでは「夢」に「ハ」という定冠詞が付いている.「その夢」とも「夢というもの」とも訳すことができる.格言だと仮定するなら,「夢というものは」のほうがよいかもしれない.

2.2.3 「の中で←多さ←仕事の」

 自分の手に余るほどの仕事に手を出すと,虻蜂取らずに終わる.

2.3 「[来る←]声(or 声というもの)は←愚者の/の中で←多さ←言葉の」

2.3.1 上記の文言と対句になっている.

2.3.2 「来る」は補足.

2.3.3 「声(or 声というもの)は←愚者の」

 上記の「夢」に対応する.愚者の大言壮語というところか.大学院の学位取得のため

 かつてメルボルン大学の学寮で研究していた時のこと.アフリカから留学に来た二人の学部生に出会った.一人は「私の将来は政治家です」と言い,もう一人は「私の将来は英国教会の司教です」と言った.大言壮語したものの,二人は落第し,将来が覚束なくなった.相撲力士が言うように,「一番一番」に集中というところか.

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