9/27 ある知者の洞察 (第44回)~似非知者,気短,怒り〜
- 平岡ジョイフルチャペル

- 2025年9月21日
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2025年9月21日 主日礼拝
聖書講話 「ある知者の洞察 (第44回)~似非知者,気短,怒り〜」
聖書箇所 コヘレトの言葉 7章7〜9節
[聖書協会共同訳]
[下線は改善の余地があると私には思われる部分]
7 虐げられれば知恵ある者でさえ愚かになり/賄賂をもらえば理性を失う。
8 事の終わりは始まりにまさる。/気の長さは気位の高さにまさる。
9 気がせいていらだってはならない。/いらだちは愚かな者の胸に宿るものだから。
以下は,ヘブライ語(MT)とギリシャ語訳原文(LXX)の解明に基づく三上の私訳と講解.両者とも,各用語の解明に基づく逐語訳に努めた.
כִּ֥י הָעֹ֖שֶׁק יְהוֹלֵ֣ל חָכָ֑ם וִֽיאַבֵּ֥ד אֶת־לֵ֖ב מַתָּנָֽה׃ 7
なぜなら,恐喝は愚者にする←知者を.そして滅ぼす←心を/贈り物は.
ὅτι ἡ συκοφαντία περιφέρει σοφὸν καὶ ἀπόλλυσι τὴν καρδίαν εὐτονίας αὐτοῦ.
なぜなら虚偽告訴は翻弄する←知者を.そして滅ぼす←心を←彼の精力の.
7.2 MTとLXXはやや趣を異にする.LXXの翻訳上の苦労が見てとれる.
7.1 「なぜなら,恐喝は愚者にする←知者を」
7.1.1 「なぜなら」
前節までに語られた知者と愚者の対比を承けている.コヘレトは知者を絶対化しない.知者といっても人間並みの知者にすぎないことを,彼はソクラテスと共に認識している.
7.1.2 「恐喝は愚者にする←知者を」
「恐喝」(オーシェク)は,LXXでは「虚偽告訴」(シュコパンティア).虚偽告訴は恐喝の一種.告訴で有罪判決が決定すると,最悪の場合,死刑の量刑が言い渡される.ソビエト連邦の時代,ルーマニア政権はその傀儡であった.宗教指導者たちが一同に集められ,キリスト教信仰はソ連が標榜する無神論共産主義と矛盾しないことを,誓約することを強要された.その際,最後まで制約を拒否した人たちは,一介の農夫たちであった.真っ先に,ソ連への恭順を誓ったのは,神学校の教師だったと,ルーマニアの気骨あるウォンブラント牧師によって証言されている.知者の皮をかぶった人たちが,実は似非知者,すなわち愚者にすぎないことが露呈したのである.なお「愚者にする」はLXXでは「翻弄する」.弱い.
7.2 「そして滅ぼす←心を/贈り物は」
前の文言の対句である.心を滅ぼすとは,知者の心を滅ぼす.知者を愚者に変貌させると読むことができる.その変貌は「贈り物」(マットタナー)によってもたらされる.「贈り物」とは賄賂のことであると解釈できる.アメリカ映画で,悪事の黒幕が実は司法長官であったというようなものを,何本か見たことがある.司法長官といえば,アメリカ合衆国司法省の長であり,連邦政府において法律問題を担当する閣僚である.そのような人でも,金銭に目がくらみ愚者に堕するということは,映画だけの話ではない.過去と現在の事実である.コヘレトの炯眼ここにあり,である.
LXXは「心」を「彼の精力(エウトニア)の心」と訳している.「エウトニア」は男性の性的能力が原義.ここでは知者の知的働き,すなわち知力・判断力と解釈することができる.虚偽告訴と命の危険は,知者の理性に狂いをもたらす.
טֹ֛וב אַחֲרִ֥ית דָּבָ֖ר מֵֽרֵאשִׁיתֹ֑ו טֹ֥וב אֶֽרֶךְ־ר֖וּחַ מִגְּבַהּ־רֽוּחַ׃ 8
よい←ものごとの終わりは/その始めよりも.よい←息が長いことは/息が高いことよりも.
ἀγαθὴ ἐσχάτη λόγων ὑπὲρ ἀρχὴν αὐτοῦ, ἀγαθὸν μακρόθυμος ὑπὲρ ὑψηλὸν πνεύματι.
よい←言葉の数々の終わりは/その始めよりも.よい←大きな息は/息における高さよりも.
8.1 MTとLXXはだいたい一致している.
8.2「よい←ものごとの終わりは/その始めよりも」
いかようにも解釈できる文言である.「始めよければ終わりよし」という言葉を連想する.「コトバンク」によると,「最初が順調ならば,最後までうまくいく.また,最初をしっかりと注意してかかれば,最後まで全体がうまく行く」.シェイクスピアの戯曲 All's Well That Ends Well を連想する人もいるかもしれない.「物事の結末が大事であり,過程は問題にならない」という意味のようである.これに対して,『妙法華経』では,始めも,中間も,終わりもよいことが,理想であることが語られている.他方,始めがよくなくても悲観する必要はない.古代ギリシャの作家アイソボスの「ウサギと亀」の寓話を思い出そう.亀は中間疾走の足を緩めなかった!
「ものごとの終わり」をLXXは「言葉の数々の終わり」と訳している.たしかに,長舌の説教の終わりは,よい.
8.3 「よい←息が長いことは/息が高いことよりも」
これが逐語訳.LXXは「大きな息」と訳している.ゆっくり「スー」と息を吸って,ゆっくり「ハー」と息を吐く深呼吸を連想する.他方,「息が高い」は「ハッハ」と急に呼吸過多になる過呼吸を連想する.くしゃみやトイレで気張るのも呼気の類いであるが,それが原因で命を落とす人がいる.反面,深呼吸中に死んだという話は聞いたことがない.もちろん,深呼吸をしてはいけない精神的・身体的状態にある人は,無理に深呼吸をしようとせずに,医療機関で受診する必要があるだろう.
אַל־תְּבַהֵ֥ל בְּרֽוּחֲךָ֖ לִכְעֹ֑וס כִּ֣י כַ֔עַס בְּחֵ֥יק כְּסִילִ֖ים יָנֽוּחַ׃ 9
あなたは急いではならない←あなたの息において/怒ることへ.なぜなら,怒りは←胸の中で←愚者たちの,居つくであろう.
μὴ σπεύσῃς ἐν πνεύματί σου τοῦ θυμοῦσθαι, ὅτι θυμὸς ἐν κόλπῳ ἀφρόνων ἀναπαύσεται.
あなたは急いではならない←あなたの息において/怒ることへ.なぜなら,怒りは←胸の中で←愚者たちの,休憩するであろう.
9.1 「あなたは急いではならない←あなたの息において/怒ることへ」
この部分はMTとLXXは一致している.わかりやすいが,実行は難しい.
『イーリアス』によると,将軍アキレウスの怒りがトロイア戦争を引き起こした.現代世界における戦争の数々は,政治指導者の怒りから始まると見ることができる.今こそ,世々の知者の言葉に耳を傾ける必要がある.
「怒りの一番の治療薬は遅らせることである」セネカ(古代ローマの哲学者)
「最も強力な戦士は忍耐と時間である」レフ・トルストイ(ロシアの作家)
「こころの怒りを絶ち,おもての怒りを棄て,人のたがふを怒らざれ」聖徳太子
「十七条憲法」

9.2 「なぜなら,怒りは←胸において←愚者たちの,居つくであろう」
この部分もMTとLXXは一致している.「居つく」(イアーヌアッフ)にご注目.LXXの「休憩する」は弱い.愚者とは誰か?その人の中に怒りが,寄生虫のように居ついている人である.虫下しを飲むことが,知者に転換するための第一歩である.その虫下しとは?もう一度セネカに聞こう.
「怒りの一番の治療薬は遅らせることである」セネカ(古代ローマの哲学者).「ちょっと待て」である.「10までゆっくり数えて気持ちを落ち着かせよう!」



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