2023年7月9日 主日礼拝
聖書講話 「マルコ福音書のイエス (第127回)〜世界の消滅と再生」
聖書箇所 マルコ福音書 13章24〜27節 話者 三上 章
[聖書協会共同訳]
24 「それらの日には、このような苦難の後/太陽は暗くなり/月は光を放たず
25 星は天から落ち/天の諸力は揺り動かされる。
26 その時、人の子が大いなる力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを、人々は見る。
27 その時、人の子は天使たちを遣わし、地の果てから天の果てまで、選ばれた者を四方から呼び集める。」
[下線は改善の余地があると私には思われる部分である]
以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解である.
24 Ἀλλὰ ἐν ἐκείναις ταῖς ἡμέραις μετὰ τὴν θλῖψιν ἐκείνην ὁ ἥλιος σκοτισθήσεται, καὶ ἡ σελήνη οὐ δώσει τὸ φέγγος αὐτῆς,
しかし,かの日々において/かの危機の後/太陽は暗くされるでしょう.そして月はその光を与えないでしょう.
24.1 古代の宗教家の言葉
今日の聖書箇所も,歴史を遡ること2000年前の古代世界における,宗教的人間の宗教的思考を反映している.もう少し言うなら.マルコ福音書を拠り所とするクリスチャンたち,すなわちマルコ共同体は,そのように考えた.
24.2 「しかし,かの日々において/かの危機の後/太陽は暗くされるでしょう」
24.2.1 イザヤ書 13章10節とイザヤ書 34章4節
LXX イザヤ書 13章10節
οἱ γὰρ ἀστέρες τοῦ οὐρανοῦ καὶ ὁ Ὠρίων καὶ πᾶς ὁ κόσμος τοῦ οὐρανοῦ τὸ φῶς οὐ δώσουσιν, καὶ σκοτισθήσεται τοῦ ἡλίου ἀνατέλλοντος, καὶ ἡ σελήνη οὐ δώσει τὸ φῶς αὐτῆς.
なぜなら,その天の星々とオリオン座とその天のそれぞれの世界は,その光を与えないでしょう.そして太陽は昇ってきても,暗くされるでしょう.そして月はその光を与え得ないでしょう.
LXX イザヤ書 34章4節
καὶ ἑλιγήσεται ὁ οὐρανὸς ὡς βιβλίον, καὶ πάντα τὰ ἄστρα πεσεῖται ὡς φύλλα ἐξ ἀμπέλου καὶ ὡς πίπτει φύλλα ἀπὸ συκῆς.
そしてその天は巻物のように巻かれるでしょう.そしてあらゆる星々は落ちるでしょう/ぶどうの樹から葉(が落ちるように)/そしてイチジクの樹から葉が落ちるように.
24.2.2 「かの日々において」
世界の終わり,すなわち終末の日々.マルコ共同体は,遅からず終末が到来すると考えた.
24.2.3 「かの危機」
「危機」(トリープシス)は,重機で押しつぶされるような苦しみ.戦乱に巻き込まれること.家族が殺され,自分も殺されるような危機.局地戦争にとどまらない.全面的な世界戦争.
24.3 「太陽は暗くされるでしょう」
昼間なのに真っ暗.日食なら元に戻る.ここではずっと真っ暗に終わりがない.
24.4 「月はその光を与えないでしょう」
太陽が暗くなると,月も暗くなる.月光すらない夜の闇がずっと続く.古代人にとっては,恐怖のどん底.
25 καὶ οἱ ἀστέρες ἔσονται ἐκ τοῦ οὐρανοῦ πίπτοντες, καὶ αἱ δυνάμεις αἱ ἐν τοῖς οὐρανοῖς σαλευθήσονται.
そして星々はその天から落ちるでしょう. そして諸天の中の諸力は揺さぶられるでしょう.
25.1 「星々はその天から落ちるでしょう」
星々が天蓋に張りついているという想像.天蓋は複数の層で考えられている.月下の世界にいる人間から見れば,その天蓋は最下層.その上に数々の天蓋があり,それぞれの天蓋に神々が住んでいる.最下層に住むのは,下級の神々.それらが,その張りついている天蓋からはげ落ちる.世界の終わりには,最下層の天蓋は甚大な損害を被る.
25.2 「諸天の中の諸力は揺さぶられるでしょう」
「諸天」というのは,最下層の天蓋の上にある天蓋の数々.それらにはより上級の神々が住む.世界の終わりには,それらの神々さえ,地震さながら上下左右に激しく揺さぶられる.
以上は象徴的描写.要するに,世界の終わりが来るという想像を描いている.
26 καὶ τότε ὄψονται τὸν υἱὸν τοῦ ἀνθρώπου ἐρχόμενον ἐν νεφέλαις μετὰ δυνάμεως πολλῆς καὶ δόξης.
そしてその時,彼らは見るでしょう/”人間の息子”が来るのを/諸雲の中で/大きな力と栄光と共に.
26.1 「その時,彼らは見るでしょう」
23節で福音書記者マルコは,マルコ共同体のクリスチャンたちに,「注視していてください」と励ました.そこでは目的語は語られなかったが,ここでは目的語が何であるかが明らかになる.
26.2 「”人間の息子”が来るのを」
対ローマユダヤ戦争後,多くの偽クリストスが台頭し,マルコ共同体を混乱に陥れた.マルコは言う.いよいよ本物が来る.それは「”人間の息子”」である.ヘブライ語では「ベン・アダム」,アラム語では「バル・エナッシュ」.いずれも「(単なる)人間の息子」,神ではなく「人間」という意味.神の前の謙遜を示す.生前のイエスは,自分を名のるとき,「私」というところを「人間の息子」と言った.人間の分際を深く意識した表現.「人間にすぎない私」という謙遜の意味合い.
しかし,イエスの死後,クリスチャンたちは,この「人間にすぎない私」であるイエスを「偉大なるクリストス」に祭り上げた.生前のイエスからすれば,ちょっと待ってください,それは違いますと言いたいところであろう.クリスチャンたちは,イエスは死んだのではなく復活したと信じた.復活して天に昇ったイエスは,偉大なるクリストスとして,天から,自分たちの所に戻って来る.そして絶望的な危機から救ってくれると,マルコ共同体のクリスチャンたちは真剣に信じた.
26.3 「諸雲の中で」
「諸雲」は,天界に属する人であることを示す.それぞれの天蓋には雲がある.数々の雲を通ってクリストは,月下の世界に下りてくる.
26.4 「大きな力と栄光と共に」
26.4.1 「大きな力」
「力」(デュナミス)は,天の軍勢を意味する.大きなデュナミスであるから,大軍勢.「栄光」は「ドクサ」.そのドクサは天界の明るさ.長い停電の後,忽然と照明器が点ったときの安堵感の程度ではない.真っ暗闇の世界がクリストスのドクサによって明るくなる.かつてなかったような明るさ.空はどこまでも澄み渡る.
27 καὶ τότε ἀποστελεῖ τοὺς ἀγγέλους καὶ ἐπισυνάξει τοὺς ἐκλεκτοὺς [αὐτοῦ] ἐκ τῶν τεσσάρων ἀνέμων ἀπʼ ἄκρου γῆς ἕως ἄκρου οὐρανοῦ.
そしてその時,彼は派遣するでしょう/その天使たちを.そして集めるでしょう/その選ばれた人たちを/四つの方角から/大地の果てから天の果てまで.
27.1 「その時,彼は派遣するでしょう/その使者たちを」
27.1.1 「彼は派遣するでしょう」
派兵するという想像.クリストスは世界中で戦争を主導している権力者たちに対して,派兵を行う.
27.1.2 「その使者たち」(アンゲロイ)
単数形は「アンゲロス」.複数形は「アンゲロイ」.先の「大きな力」を指す.大勢の精兵たち.
27.2 「集めるでしょう/その選ばれた人たちを/四つの方角から/大地の果てから天の果てまで」
27.2.1 「集めるでしょう」
散らされていることを前提する.クリスチャンたちを,一つの理想の都市に集める想像.そのポリスの市民にするということ.
27.2.2 「その選ばれた人たち」
マルコ共同体のクリスチャンたち.その全員が,クリストスのポリスに集められるという想像.
27.2.3 「四つの方角から/大地の果てから天の果てまで」
マルコ共同体のクリスチャンは,世界のどこに居住していようとも.理想のポリスに集められ,その市民となるという選民意識の表明.
まとめ:今の悪い世界が消滅すべきである.新しくクリストスの世界が再生してほしい.マルコ共同体の切実な気持が伝わってくる.しかし私は異論を唱えたい.彼らはクリストス頼みである.他力本願である.世界を変えるのは,神ではなく人間である.私が世界を変える一人になる.人間の努力があってこそ,神も助力してくれるのではないだろうか.
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