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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

6/9 マタイ福音書のイエス (第4回) ~〈マゴスたち〉によるメシア生誕地の予測〜

2024年6月9日 主日礼拝

聖書講話  「マタイ福音書のイエス (第4回)

      ~〈マゴスたち〉によるメシア生誕地の予測〜」  

聖書箇所   マタイ福音書2章1〜3節  話者 三上 章



聖書協会共同訳

  [下線は改善の余地があると思われる部分]

1 イエスがヘロデ王の時代にユダヤのベツレヘムでお生まれになったとき,東方の博士たちがエルサレムにやって来て,2 言った.「ユダヤ人の王としてお生まれになった方は,どこにおられますか.私たちは東方でその方の星を見たので,拝みに来たのです.」3 これを聞いて,ヘロデ王は不安を抱いた.エルサレムの人々も皆,同様であった


 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


1 Τοῦ δὲ Ἰησοῦ γεννηθέντος ἐν Βηθλέεμ τῆς Ἰουδαίας ἐν ἡμέραις Ἡρῴδου τοῦ βασιλέως, ἰδοὺ μάγοι ἀπὸ ἀνατολῶν παρεγένοντο εἰς Ἱεροσόλυμα

イエスースが生まれた時←ベートゥレエムで←イウーダイアの/日々において←ヘーローデース王の,見よ!マゴスたちが東方から来た←イエロソリュマの中に


1.1 「イエスが生まれた時←ベートゥレエムで←ユダヤの」

1.1.1 本日の聖書箇所の伝承史的考察

 本日の聖書箇所も,先行する箇所と同様に,イエスの誕生にまつわる聖者伝説に由来する.最古の福音書であると想定される,マルコ福音書の記者は,教祖の誕生をほめそやすことに関心をもたないが,他方,マルコ福音書に基づいて作成されたと想定される,マタイ福音書の記者は,教祖の誕生を大いに美化する.全部がマタイによる創作であるとは断定できないが,相当,マタイの編集の手が加えられていると思われる.

1.1.2 「イエスースが生まれた時」

 福音書記者マタイは,イエスの出生地にこだわる.出生地による貴賎,貴い・賎しいの区別・差別である.現代日本においても,たとえば,京都は大阪より上である,東京は青森より上であるという優越感が,一部の人たちに見られる.

1.1.3 「ベートゥレエムで←イウーダイアの」

 地名・人名は,参考のためギリシャ語の発音で記す.マタイが,ユダヤのベツレヘムと言う時,ユダヤ教聖典における,古代イスラエル王国のダビデ王ゆかりの町,その伝統を受け継ぐ栄光のユダヤ王国を想像している,イエスの生誕地は,そのように高貴な場所でなければならない,とマタイは考えた.

1.2 「日々において←ヘーローデース王の」

1.2.1 「日々において」

 在位期間を意味する.

1.2.2 「ヘーローデース王の」

 マタイは,イエスの生誕はヘロデ王の在位期間であると言う.これが歴史の事実であるかどうかは,不明である.ここのヘロデ王は,いわゆるヘロデ大王(在位前 37年頃~前4年)である.

  [ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典]によると,ヘロデ大王は,ユダヤの伝統よりもヘレニズム文化に傾斜していた.前37年,ハスモン朝を滅ぼし,ローマの宗主権の下ユダヤ王となり,大王と言われた.エルサレム神殿を再建.この時代の末にイエスが生まれたと伝えられる.

 ヘロデ(ヘロデス)はユダヤ人ではなくイドマヤ人.イドマヤ人とはユダヤの南方のエドム人の子孫で,ハスモン朝の支配下で強制的に割礼を施され,ユダヤ教に改宗させられた人々.つまりアラブ人.

 ヘロデの父,アンティパスがハスモン家の内紛に乗じて力をつけてユダヤ総督となり,実質的な権力者になったとき,その子ヘロデはガリラヤ地方の知事となった.

 その後もハスモン朝の内紛が続いたが,前40年,ヘロデは親ローマ派として自らローマに赴き,アントニウスに取り入って,元老院からユダヤ王の地位を与えられた.

 その後,前37年にハスモン家を滅ぼし,名実ともにユダヤの王となり,ハスモン家の娘と結婚した.ローマでアントニウスに代わりオクタウィアヌスが権力を握ると,直ちにそれに取り入って,権力を保障された.父以来ローマの東方進出政策と手を結び,富と政治力を築いた

 ヘロデはエルサレム神殿を大改築して壮大な神殿に造り替え,ユダヤ人の歓心を買うことに務めたが,ローマ化に対するユダヤ教徒の反発も強まった.

 彼は常に反乱の危険におびえながら,懐柔と圧政を使い分けて権力を維持し,「ヘロデ大王」と言われるようになった.ローマに制圧された広大な東方地域も,反乱の火種であった.前4年に死ぬと領地は三人の子どもに分割され,ガリラヤ地方はヘロデ=アンティパスが領有したが内紛とユダヤ人の反抗が続いた.


1.3 「見よ!」

 驚きと恐れを表す間投詞.マタイは,いわば,外国からの侵攻に対して驚き恐れよと言っている.黒船が来たぞ!という感じか.


1.4 「マゴスたちが東方から来た←イエロソリュマの中に」

1.4.1 「マゴスたち」

 実は,マゴスたちが何であるかは,不明.キッテルの『新約聖書神学辞典』によると,少なくとも四つの意味がある.

1)ペルシャの祭司階級の一員 2)超自然の知識と能力を持つ人 3) 呪術師

4)詐欺師

 ここでは1)ペルシャの祭司階級の一員」が妥当かもしれない.ペルシャのマゴスたちは国王の選任に対して大きな影響力をもっていた.マタイのマゴスたちは,多数の警護兵と侍者たちを伴って,東方から旅をし,エルサレムに入場したと考えるほうがよい.


2 λέγοντες· Ποῦ ἐστιν ὁ τεχθεὶς βασιλεὺς τῶν Ἰουδαίων; εἴδομεν γὰρ αὐτοῦ τὸν ἀστέρα ἐν τῇ ἀνατολῇ καὶ ἤλθομεν προσκυνῆσαι αὐτῷ.

いわく.「どこにいるのですか←その生まれたユダヤ人たちの王は?なぜなら,私たちは見ました←彼の星を←東方で.そして私たちは来ました←彼に最敬礼するために.


2.1 「どこにいるのですか←その生まれたユダヤ人たちの王は?」

2.1.1 「どこにいるのですか?」

 マゴスたちたちは誰にこの質問をしたのか?外国からのいわば貴賓一行に応対するのであるから.おそらくヘロデ王国の外交担当廷臣にであろう.

2.1.2 「その生まれたユダヤ人たちの王は」

 「その生まれた」という表現は,代替わりを示唆する.ヘロデ王にとってはいやな知らせである.「ユダヤ人たちの王」というからには,マゴスたちは何らかの方法で,ユダヤ王国の新たな王となるであろう人の生誕をつきとめたことになる.


2.2 「なぜなら,私たちは見ました←彼の星を←東方で」

2.2.1 「私たちは見ました」

 マゴスたちは天体観測に詳しい専門家である.現在の宇宙論学者というところか.

2.2.2 「彼の星を」

 「彼の」が強調されている.通常は「星」の後に来るはずであるが,ここではその前に置かれている.他でもなくユダヤ王国の王と結びつく星.それをマゴスたちは「東方」で観測した.現代人の見地からすると,星辰崇拝.古代バビロニア,カルディアでは,星の運行,配置から人間や社会の運命が予知できるとする占星術が発達を遂げた.それはヘレニズム期の西方や東方に取り込まれ,広く信奉された.ヘレニズム世界を席巻していた占星術に基づいた科学的証拠が,マゴスたちによって突きつけられた.


2.3 「私たちは来ました←彼に最敬礼するために」

2.3.1 「私たちは来ました」

 マゴスたちは東方から,大軍を率いて,はるばるエルサレムの中にやって来た.

2.3.2 「彼に最敬礼するために」

 「最敬礼する」と訳した「プロスキュネオー」は,「深くおじぎをする」が原義.マタイ教会の時点では,神としてのイエス・キリストへの拝礼を意味するであろう.


3 ἀκούσας δὲ ὁ βασιλεὺς Ἡρῴδης ἐταράχθη καὶ πᾶσα Ἱεροσόλυμα μετ’ αὐτοῦ,

(これを)聞いた時←王なるヘーローデースは,大いに動揺した←そして全イエロソリュマは←彼と共に



3.1 「(これを)聞いた時←王なるヘーローデースは,動揺した」

3.1.1 「(これを)聞いた時」

 「これを」は,私の補足.外交担当廷臣からヘロデ王は,マゴスたちの来訪とその目的を聞いた.

3.1.2 「王なるヘーローデース」

 1節では「ヘロデ王」であったが,ここでは「王ヘロデ」.「王」が強調されている.マタイは,最高権力者である王の反応に聴衆・読者の注意を喚起したい.

3.1.3 「大いに動揺した」

 「大いに動揺した」は,「かき回す「かき混ぜる」を意味する「タラッソー」の受動相.ヘロデ王の心は大いに動揺した.独裁者にとって何が大きな衝撃かといって,その地位がおびやかされることほど大きな動揺はない.独裁者は,ありとあらゆる手を使って,自分の地位を守ろうとする.


3.2 「そして全イエロソリュマは←彼と共に」

 ヘロデ王と共に全エルサレムも大いに動揺した.当時の政権交代には内戦がつきものであった.大規模な殺戮と破壊が行われる.エルサレムの悲惨な壊滅に関して言えば,マタイ教会のクリスチャンたちは,紀元70年のローマ帝国によるエルサレム陥落をありありと憶えていた.

 ヨセフスによると.ヘロデ王は70歳頃に病死することになるが,それでも死ぬ寸前までなお反旗を翻すものを始末する気力はあったという(『ユダヤ戦記』I巻33章2-4節・『ユダヤ古代誌』XVII巻6章2-4節).

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