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6/4 「マルコ福音書のイエス (第123回)〜信念を貫く男」

執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル平岡ジョイフルチャペル

2023年6月04日 主日礼拝

聖書講話  「マルコ福音書のイエス (第123回)〜信念を貫く男」

聖書箇所   マルコ福音書 13章9〜10節  話者 三上 章

[聖書協会共同訳]

9 あなたがたは自分のことに気をつけていなさい。あなたがたは地方法院に引き渡され、会堂で打ち叩かれる。また、私のために総督や王の前に立たされて、証しをすることになる。

10 こうして、まず、福音がすべての民族に宣べ伝えられねばならない。

 [下線は改善の余地があると私には思われる部分である]


 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解である.

9 Βλέπετε δὲ ὑμεῖς ἑαυτούς· παραδώσουσιν ὑμᾶς εἰς συνέδρια καὶ εἰς συναγωγὰς δαρήσεσθε καὶ ἐπὶ ἡγεμόνων καὶ βασιλέων σταθήσεσθε ἕνεκεν ἐμοῦ εἰς μαρτύριον αὐτοῖς.

見ていてください/他でもなくあなた方は/自分自身を.彼らはあなたがたを引き渡すでしょう/シュネドリオンの(数々)の中へ.そしてシュナゴーゲー(の数々)の中へ(あなた方を引き渡し)あなた方は殴打されるでしょう.そして代官たちや王たちのところで/あなた方は立たせられるでしょう/私のゆえに/彼らへの証言のために.


9.1 「見ていてください/他でもなくあなた方は/自分自身を」

9.1.1 「他でもなくあなた方は」(ヒューメイス)

 「ヒューメイス」は,複数2人称の強調形.福音書記者マルコイエスによって語りかけられている人たちは,物語の表面ではイエスの学友たちである.同時に,裏面としては,マルコ教会のクリスチャンたちでもある.イエスの死後に,マルコ福音書を信奉するクリスチャンの共同体が誕生した.この人たちは,もともとは,ユダヤ教徒であり,ユダヤ人共同体に所属していた.当時,ユダヤ教徒がクリスチャンになることは,いわばキリシタン禁令時代の日本人がキリシタンになるのと同じくらい,命がけの行動であった.マルコ教会のクリスチャンたちは,決死の覚悟でユダヤ人共同体から分離し,クリスチャンの共同体に加入した.

 ところで,マルコ教会の所在はどこか?イエスの死後,エルサレムで誕生したクリスチャンたちは,パレスティナを始めとして,世界各地の都市に波及し,増加していった.マルコ教会はどこかの都市に所在したのであろうが,それ以上はわからない.

9.1.2 「見ていてください・・・自分自身を」

 これが直訳.自分を見失いようにという感じか.自分の身にいつ何が起ころうと,クリスチャンたちは冷静沈着でいなければならない.そのためには日頃の自己鍛錬が必要である.戦時中の日本では,マルクスの『共産党宣言』を所持していると逮捕された.マルコ教会の時代のユダヤ教社会では,キリスト信仰は犯罪であった.クリスチャンであることは,決死のことであった.

9.1.3 小林多喜二

 《蟹工船》でプロレタリア作家の地位を確立.1931年共産党に入党,日本プロレタリア文化連盟などで活動した.困難な非合法生活の中で《党生活者》を書いたが,1933年特高警察に拷問・虐殺された。


9.2 「彼らはあなたがたを引き渡すでしょう/シュネドリオンの(数々)の中へ.そしてシュナゴーゲー(の数々)の中へ(あなた方を引き渡し,その場所で)あなた方は殴打されるでしょう」

9.2.1 「彼らはあなたがたを引き渡すでしょう/シュネドリオンの(数々)の中へ」

 「彼ら」とは,クリスチャンに反対するユダヤ教徒たちであろう.「引き渡す」の定動詞形「パラディドーミ」は,「司法・裁判に引き渡す」ことを意味する.

9.2.2 「シュネドリオン(の数々)」

 単数形でエルサレムのサンヘドリンを示すことができるが,ここは複数形.エルサレム崩壊後の状況を反映する.エルサレムの崩壊はとりもなおさず,エルサレム神殿の崩壊であった.神殿を拠り所とするユダヤ教支配体制は,消滅した.代わって,各地のユダヤ人共同体におけるシュナゴーゲーが,指導権を発揮する.その時点で,シュネドリオンは,シュナゴーゲーと結託して,ユダヤ教の地方法廷の役割を果たしたと想定される.パレスティナだけではなく,シリアやアシア属州などを含む世界各地のユダヤ人共同体の中に存在していた.


9.3 「そしてシュナゴーゲー(の数々)の中へ(あなた方を引き渡し,その場所で)あなた方は殴られるでしょう」

9.3.1 「の中へ」(エイス)

 「エイス」は,本来.「の中へ」という意味の前置詞.それでは意味が通じないので.「あなた方を引き渡し,その場所で」を補足した.

9.3.2 「シュナゴーゲー」

 ユダヤ教陣営がギリシャ世界から借用した用語.「一緒にすること」,「集合」,「集会」を意味する.ユダヤ教のシュナゴーゲーは,各地のユダヤ教共同体の拠点であり,教育,十分の一税の徴収,そしてここにあるように懲罰の機能を果たした.

9.3.3 「あなた方は殴られるでしょう」

 「殴られる」の定動詞形「デロー」は,本来,「(動物の)皮を剥ぐ」という意味.いかに怒りに燃えようとも,まさか人間の皮を剥ぐようなことはしないであろうから,暫定的に,「殴打する」と訳した.

⑦ もっとも江戸時代のキリシタンは,皮を剥がれるのに近い拷問を受けた.「穴吊りの図」が残されている.日本人がキリシタンになることは,極悪な犯罪であった.ユダヤ教徒がクリスチャンになることは,極悪な犯罪であった.


9.4 「そして代官たちや王たちのところで/あなた方は立たせられるでしょう/私のゆえに/彼らへの証言のために」

9.4.1 「そして代官たちや王たちのところで/あなた方は立たせられるでしょう」

 「代官たち」と訳した「ヘーゲモーン」は,ローマ帝国の地方総督.「王たち」と訳した「バシレウス」は,ローマ帝国によって認可された傀儡としての王.クリスチャンたちは,特に指導者たちは,ローマ帝国に対する国家騒乱罪の容疑で,ローマ帝国の法廷に「立たせられる」こともあった.

9.4.2 「私のゆえに」

 キリストという名前のゆえに,すなわちクリスチャンのゆえにということ.クリスチャンの元の言葉は「クリスティアーノス」.「クリストス」(キリスト)+「イアーノス」(〜に属する者.〜の組の者).

9.4.3  小アジアの北西に位置するビテュニア地方の総督小プリニウスからローマ皇帝トラヤヌスにあてた書簡 112年

 「クリスチャンであるとして私の前で告発された者に対して,わたしはこのように扱ってきました。クリスチャンであるかどうかを尋問し,そうであると告白した者には,二度,三度尋問しました.その間に脅しの尋問も交えました.それでも信仰を固持する者には,処刑を言い渡しました」

9.4.4 「彼らへの証言のために」

 福音書記者マルコは,クリスチャンたちに,逮捕・裁判・拷問をキリスト信仰の証言の機会として,積極的に受けとめよと鼓舞する.妙法蓮華経に従って信念を貫いた日蓮に通底するところがある.仏法のゆえの受難という意味で「法難」と言う.「小松原法難」を参照.


10 καὶ εἰς πάντα τὰ ἔθνη πρῶτον δεῖ κηρυχθῆναι τὸ εὐαγγέλιον.


そしてあらゆる民族の中へ←始めに/ねばなりません←伝達され/そのエウアンゲリオンが.


10.1 「そしてあらゆる民族の中へ←始めに」

10.1.1 「あらゆる民族の中へ」

 先に地図で見たように,西暦紀元1世紀の時点で,キリスト教はあらゆる民族の中へ拡大していった.

10.1.2 「始めに」

 ユダヤ人に限らずあらゆる民族へキリスト教を,ということ.ここにキリスト教の普遍主義が現れている.日本人でなければ,あげないというのではなく,外国の人にも,いや外国の人にこそ優先的にあげるという精神.


10.2 「ねばなりません←伝達され」

10.2.1 「ねばなりません」(デイ)

 ここにもマルコ教会の強い決意が表れている.あげてもあげなくてもいいというのではなく,必ずあげるということ.

10.2.2 「伝達され」

 「伝達される」と訳した言葉の定動詞形「ケーリュッソー」.「伝令」(ケーリュクス)が命がけで伝言を伝える行為を意味する.戦争において,敵の攻撃をかいくぐりながら,伝言を伝えることは,命がけで勇敢な行為であった.マルコ教会のクリスチャンたちは勇敢であり,反対を恐れなかった.

10.3 「そのエウアンゲリオンが」

 彼らによって命がけで伝達されたものが,「エウアンゲリオン」.原文は,「ト・エウアンゲリオン」.「ト」という冠詞が付いているから,「そのエウアンゲリオン」.マルコ福音書では,1章1節にあるように,イエス・キリストをさす.同時に,イエス・キリストを伝えるマルコ福音書をさす.エウアンゲリオンは,本来,伝言を命がけで伝達した伝令に与えられる褒美を意味する.「福音」とは違う.「伝令報奨金」である.伝令としてのクリスチャンに与えられる褒美は,イエス・キリストである.その伝言もイエス・キリストである.

 クリスチャンとは,イエス・キリストを具現する人である.イエス・キリストに関するドグマを語るだけの人ではない.


 
 
 

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