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4/13 マタイ福音書のイエス (第35回) ~〈誓いの禁止〉を考察する〜

  • 執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル
    平岡ジョイフルチャペル
  • 6 日前
  • 読了時間: 6分

2025年4月13日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第35回)

       ~〈誓いの禁止〉を考察する〜

聖書箇所    マタイ福音書 5章33〜37節   話者 三上  章


      [聖書協会共同訳]  

        ※下線は修正の余地があると思われる部分

33 「また、あなたがたも聞いているとおり、昔の人は、『偽りの誓いを立てるな。誓ったことは主に果たせ』と言われている。34 しかし、私は言っておく。一切誓ってはならない。天にかけて誓ってはならない。そこは神の玉座である。35 地にかけて誓ってはならない。そこは神の足台である。エルサレムにかけて誓ってはならない。そこは偉大な王の都である。36 また、あなたの頭にかけて誓ってはならない。髪の毛一本すら、あなたは白くも黒くもできないからである。37 あなたがたは、『然り、然り』『否、否』と言いなさい。それ以上のことは、悪から生じるのだ。」

 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


33 Πάλιν ἠκούσατε ὅτι ἐρρέθη τοῖς ἀρχαίοις · Οὐκ ἐπιορκήσεις, ἀποδώσεις δὲ τῷ κυρίῳ τοὺς ὅρκους σου.

もう一度あなたたちは聞きました/ということを←語られた・昔の人たちに.「あなたは偽りの誓いをしてはならない.あなたは返済しなければならない・その主人に・あなたの誓いの数々を」


33.1 「もう一度あなたたちは聞きました」

33.1.1 「もう一度」(パリン)

 福音書記者マタイは,彼の教会に属するクリスチャンたちに念を押す.

33.1.2 「あなたたちは聞きました」

 マタイ教会のクリスチャンたちは,聞いた.読んだ,ではない.

33.2 「ということを←語られた・昔の人たちに」

 彼らが聞いたことは,昔の人たちに語られたこと.昔の人たちとは,モーセの時代に遡る.この人たちは,ヤハウェがモーセを通して語った律法を聞いた.その内容は以下のとおり.

33.3 「あなたは偽りの誓いをしてはならない」

 「偽りの誓いをする」と訳した「エピオルケオー」は,「誓いを破る」という意味を含む.どういう場面が考えられるか?たとえば,法廷での偽証.偽証であると知っていながら,真実を語りますと言ってのける人が,当時もいた.古代ローマ時代においても,偽証は大罪であった.「信義」(fides)を重視したローマ人は,偽証を大変嫌い,買収された証人・悪意の証人は,「タルペイア岩頭」という刑場において逆さまに落とされた.

33.4 「あなたは返済しなければならない・その主人に・あなたの誓いの数々を」

33.4.1 「あなたは返済しなければならない」

 「返済する」(アポディドーミ)は,「借りたものを返す」という意味である.返すべきものは,返さなければならない.

33.4.2 「その主人に」

 ここでの「主人」(キュリオス)はわヤハウェを意味する.ヤハウェに祈願するにあたり,奉納を約束した人は,誠実に奉納を履行しなければならない.

33.4.3 「あなたの誓いの数々を」

 「誓い」と訳した「ホルコス」は,ここでは奉納物を意味する.複数形である.神に祈願する人は,神に返済すべき奉納物の数々を神から借りている.それが福音書記者マタイの観点である.


34 ἐγὼ δὲ λέγω ὑμῖν μὴ ὀμόσαι ὅλως · μήτε ἐν τῷ οὐρανῷ, ὅτι θρόνος ἐστὶν τοῦ θεοῦ ·

私は言います・あなた方に←誓ってはならない・絶対.天によっても/なぜなら(それは)王座だからです←その神の.


34.1「私は言います・あなた方に」

 福音書記者はイエスに付託して自分の見解を語る.

34.2 「誓ってはならない・絶対」

34.2.1 「誓ってはならない」

 「誓う」と訳した「オムニューミ」の原義は,「しっかり掴む」.そこから「聖なる対象を掴む」という用法が派生する.その場合,何かを誓うにあたり,聖なる対象を奉納する約束をもって誓う.誓うことは奉納することである.誓いには犠牲が伴う.古代世界では,誓いは通常神々を持ち出してなされる.すなわち,「神に誓う」「神々に誓う」をという表現をとる.たとえば,ユピテル,ユノー,経れ狗レスに誓う.神々が信義の証人である.信義とは,真心をもって約束を守り,相手に対するつとめを果たすことである.ヘレニズム・ローマ時代になると,誓いは,神に似た支配者たる王や皇帝を持ち出してなされる.たとえば,「私は誓います.神の息子である絶対者カイサル(皇帝)に」.

34.2.2 「絶対」

 誓いの禁止を強弁している.それほど日常生活の中で軽薄な誓いが横行していた背景が想像される.マタイのイエスは,絶対誓いをしてはいけないと言っている.

クエーカーの元祖ジョージ・フォクスを連想する.彼は法廷で絶対宣誓をしなかった.そのため何度も投獄された.


34.3 「天によっても/なぜなら(それは)王座だからです←その神の」

 天に誓うことは,神に誓うことに等しい.


35 μήτε ἐν τῇ γῇ, ὅτι ὑποπόδιόν ἐστιν τῶν ποδῶν αὐτοῦ · μήτε εἰς Ἱεροσόλυμα, ὅτι πόλις ἐστὶν τοῦ μεγάλου βασιλέως ·

地によっても/なぜなら(それは)足座だからです.ヒェロソリュマに向かっても/なぜなら(それは)ポリスだからです←偉大な王国の.


35.1 「地によっても/なぜなら(それは)足座だからです」

 地に誓うことも,神に誓うことに等しい.

35.2 「ヒェロソリュマに向かっても/なぜなら(それは)ポリスだからです←偉大な王国の」

35.2.1 「ヒェロソリュマ」

 イェルサレムはそのように表記されている.イェルサレムはユダヤ教祭祀の中心地.祭祀とは神や祖先を祀ること.

35.2.2 「なぜなら(それは)ポリスだからです←偉大な王国の」

 イェルサレムは神のポリス,神の都である.イェルサレムに向かって誓うことも,神に誓うことに等しい.


36 μήτε ἐν τῇ κεφαλῇ σου ὀμόσῃς, ὅτι οὐ δύνασαι μίαν τρίχα λευκὴν ποιῆσαι ἢ μέλαιναν.

あなた頭によっても・誓ってはならない.なぜならあなたはできません・一本の髪を白くすることを,あるいは黒くすることを.


36.1 「あなた頭によっても・誓ってはならない」

 「頭」(ケパレー)は,生命の象徴である.そういえば「バイタリス」というアメリカで発売された男性用液体整髪料がある.Vitalisはラテン語の「ウィータ」(vīta)に由来する.「ウィータ」は「生命」という意味.古代では,生命は神の手の中にあると信じられた.頭に誓うことも,神に誓うことに等しい.

 神に誓うのではなく,天,地,イェルサレム,頭に誓うのだから,いいだろうということにはならない.マタイのイエスの観点からは,それらはすべて神の逃げ口上である.

36.2 「なぜならあなたはできません・一本の髪を白くすることを,あるいは黒くすることを」

 ヘアーカラリングは,あくまでも見せかけであって,恒常的なものではない.そもそも髪の毛がなければ,ヘアーカラリングも成り立たない.ウィッグという方法もあるが,自分の頭髪ではない.頭髪のあるなし,頭髪の黒白は神の手の中にある.ところで,当時の人々は黒髪だったのか?


37 ἔστω δὲ ὁ λόγος ὑμῶν ναὶ ναί, οὒ οὔ · τὸ δὲ περισσὸν τούτων ἐκ τοῦ πονηροῦ ἐστιν.

でありなさい・あなたがたの言葉は・「はい・はい」(ナイ・ナイ),「いいえ・いいえ(ウー・ウー)」.より多くのものは←それらより・悪いものに所属するからです.


37.1 「でありなさい・あなたがたの言葉は・「はい・はい」(ナイ・ナイ),「いいえ・いいえ(ウー・ウー)」

 「ナイ・ナイ」,「ウー・ウー」とは,面白い語法である.「ナイ」の重みと「ウー」の重みを,マタイのイエスは重視する.軽々しく誓ってはならない.「はい」ならばその「はい」を実行しなければならない.「いいえ」ならその「いいえ」を実行しなければならない.

37.2 「より多くのものは←それらより・悪いものに所属するからです」

37.2.1 「より多くのものは←それらより」

 「ナイ」か「ウー」かどちらか.それに一言も加えてはならない.

37.2.2 「悪いものに所属する」

 「悪いもの」は,中性名詞「悪いこと」(ポネーロン)にも男性名詞「悪い人」(ポネーロス」にも解釈することができる.後者ならば「悪魔」という意味になる.他方,後者なら「この世に存在する悪」という意味になる.誓いはこの世に存在する悪,しかも最悪の部類に属する,と福音書記者マタイは言いたい.


 
 
 

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