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3/17 ある知者の洞察(第32回)〜神への有言実行〜

執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル平岡ジョイフルチャペル

2024年3月17日 主日礼拝

聖書講話   「ある知者の洞察(第32回)〜神への有言実行」  

  聖書箇所    コヘレトの言葉 5章3〜6節



[聖書協会共同訳]

     [下線は改善の余地があると私には思われる部分]

3 神に誓いを立てたら/果たすのを遅らせるな。/愚かな者は喜ばれない。/誓いを立てたことは果たせ。4 誓いを立てて果たさないなら/誓いを立てないほうがよい。5 口によって身に罪を負うことのないようにせよ。/使いの者の前で/「あれは過ちだった」と言ってはならない。/神がその声に怒り/あなたの手の業を滅ぼして、なぜよいだろうか。6 夢が多ければ、ますます空しくなり/言葉も多くなる。/神を畏れよ。


 以下は,ヘブライ語とギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解.

上は,ヘブライ語聖書(MTと略す).下は,七十訳ギリシャ語聖書(LXXと略す).


3

כַּאֲשֶׁר֩ תִּדֹּ֨ר נֶ֜דֶר לֵֽאלֹהִ֗ים אַל־תְּאַחֵר֙ לְשַׁלְּמֹ֔ו כִּ֛י אֵ֥ין חֵ֖פֶץ בַּכְּסִילִ֑ים אֵ֥ת אֲשֶׁר־תִּדֹּ֖ר שַׁלֵּֽם׃


時に←あなたが誓いを誓う←神に/あなたは遅らせてはならない←(誓いを)果たすことを.なぜなら喜びがない←愚者たちの中では.あなたが誓うであろうことを果たしなさい


καθὼς ἂν εὔξῃ εὐχὴν τῷ θεῷ,  μὴ χρονίσῃς τοῦ ἀποδοῦναι αὐτήν· ὅτι οὐκ ἔστιν θέλημα ἐν ἄφροσιν, σὺν ὅσα ἐὰν εὔξῃ ἀπόδος.


時に←あなたが祈りを祈る←神に/あなたは遅らせてはならない←(誓いを)果たすことを.なぜなら喜びがない←愚者たちへの.あなたが誓うであろうかぎりのことどもと共に,返しなさい


3.1 MTとLXXの比較

3.1.1 MT「誓いを誓う」.LXX「祈りを祈る」.LXXは誓いの祈りのつもり.

3.1.2 MT「喜び」.LXX「喜び」.

3.1.3  MT「あなたが誓うであろうこと」.LXX「あなたが誓うであろうかぎりのことども」.LXXは誓いの履行義務を強調している.

31.4  MT「あなたが誓うであろうこと」.LXX「あなたが誓うであろうかぎりのことどもと共に」.を」(エート).

3.1.5  MT「果たしなさい」.LXX「返しなさい」.LXXは,神への奉献物はもともと神のものであるという宗教的考えに立っている.

3.2 「時に←あなたが誓いを誓う←神に/あなたは遅らせてはならない←(誓いを)果たすことを」

3.2.1 申命記 23章22節

 ほぼこの文言の引用.強調点に違いがある.申命記は誓いの履行を強調しているのに対して,コヘレトは誓いの不履行を強調している.

3.2.2 軽率な誓い

 神への軽率な誓いとその不履行は,当時のユダヤ教世界では稀ではなかった状況を示唆する.

3.3 「なぜなら喜びがない←愚者たちの中では」

 意味不明.多様な解釈がある.

3.3.1 「喜び」を「神の喜び」と読む.神は愚者たちを喜ばない.LXXはそのような意味らしい.

3.3.2 「喜び」を「愚者たちの喜び」と読む.愚者たちは誓いの履行を喜ばないという意味になる.

3.3.3 「喜び」を「一般の人々の喜び」と読む.一般の人々は愚者たちを喜ばない.愚者たちは役立たずである.お呼びではない.何かそういった格言が流通していて,それをもじったのではないという解釈である.誓いを履行しない人たちは愚者であるという一般通念.この解釈を私は気に入っている.

3.4 「あなたが誓うであろうことは果たしなさい」

 「あなたが」は愚者たちと対比されている.愚者たちはいざ知らず,他でもなくあなたは誓いを誠実に履行しなさい,とコヘレトは彼の聴衆に語りかける.


4

טֹ֖וב אֲשֶׁ֣ר לֹֽא־תִדֹּ֑ר מִשֶּׁתִּדֹּ֖ור וְלֹ֥א תְשַׁלֵּֽם׃


よい←あなたが誓わないことは/ことよりも←あなたが誓うが(誓いを)果たさない.


ἀγαθὸν τὸ μὴ εὔξασθαί σε ἢ τὸ εὔξασθαί σε καὶ μὴ ἀποδοῦναι.


よい←あなたが祈らないことは/よりも←あなたが祈るが返さないこと.


4.1 MTとLXXの比較

4.1.1 MT「果たす」.LXX「返す」は,神のものは神に返すという宗教観を反映しているかんもしれない.

4.1.2 MT「誓う」.LXX「祈る」(エウコマイ).「エウコマイ」は,「(神々に)祈る」が原義.ここでは「誓いの祈りをする」という意味.

4.2 「よい・・・ことよりも」(トーブ・・・ミシェ)

 「よい」(トーブ)は日常生活の中でよく使われる言葉である.何がそれ自体において絶対的によいかとなると,決定することはむずかしい.しかし何よりも何がよいかとなると,それは比較の問題であるから,比較的答えやすい.

4.3 「あなたが誓わないこと」

 消極的姿勢である.「あなたが誓うが(誓いを)果たさない」と対比されている.誓いの不履行よりも,そもそも誓いしないほうがましであるという理屈.まあそうであろう.少なくとも嘘つきのそしりは免れることができる.


5

אַל־תִּתֵּ֤ן אֶת־פִּ֨יךָ֙ לַחֲטִ֣יא אֶת־בְּשָׂרֶ֔ךָ וְאַל־תֹּאמַר֙ לִפְנֵ֣י הַמַּלְאָ֔ךְ כִּ֥י שְׁגָגָ֖ה הִ֑יא לָ֣מָּה יִקְצֹ֤ף הָֽאֱלֹהִים֙ עַל־קוֹלֶ֔ךָ וְחִבֵּ֖ל אֶת־מַעֲשֵׂ֥ה יָדֶֽיךָ׃


許すな←あなたの口をして/罪をおかすことを←あなたの肉体が.そして語るな←あなたの使者の前で.「間違い←実に」.なぜ怒るべきか←エロヒムは←あなたの声を?そして破壊すべきか?←行うことを←あなたの両手の.


μὴ δῷς τὸ στόμα σου τοῦ ἐξαμαρτῆσαι τὴν σάρκα σου  καὶ μὴ εἴπῃς πρὸ προσώπου τοῦ θεοῦ ὅτι Ἄγνοιά ἐστιν, ἵνα μὴ ὀργισθῇ ὁ θεὸς ἐπὶ φωνῇ σου καὶ διαφθείρῃ τὰ ποιήματα χειρῶν σου.


与えるな←あなたの口を/罪をおかさせるために←あなたの肉体に.そして語るな←の前で.「まさに無知」.それは(〜の)ためです←が怒らない←あなたの声に.そしてためです←滅びない←行うことどもが←あなたの両手の.


5.1 MTとLXXとの比較

5.1.1 MT「許す」.LXX「与える」

5.1.2 MT「使者」.LXX「神」

5.1.3 MT「間違い」.LXX「無知」

5.1.4 「なぜ・・・べきか?」.LXX「それは(〜の)ためです」

5.1.5 MT「エロヒム」.LXX「テオス」

5.1.6 MT「破壊する」.LXX「滅びる」

5.1.7 MT「行うこと」(単数).LXX「行うことども」

5.2 「許すな←あなたの口をして/罪をおかすことを←あなたの肉体が」

5.2.1 「罪をおかす」

 定動詞形は「ハーター」.「ゴールあるいは道を外す」.誓い不履行の罪をおかすことを,肉体だけのせいにしてはいけない.あなた自身が罪をおかす.

5.2.2 「あなたの肉体」

 肉体だけではなく全人格を意味する.

5.3 「そして語るな←あなたの使者の前で.「間違い←ほんとうに」

5.3.1 「使者」(マルアーフ)

 いくつかの解釈がある.① 神 ② 神の使者.すなわち預言者または祭司.ここでは祭司 ③ 神殿の使者.誓いを記録し取りたてた.おそらく「② 祭司」または「③ 神殿の使者」が妥当.「① 神」ではない.まさか神の前でぬけぬけとこうした言い訳をする人はいないであろう.

5.3.2 「間違い←ほんとうに」

 不注意でした.うっかりミスです.もちろん辻褄の合わない言い訳.

5.4 「なぜ怒るべきか←エロヒムは←あなたの声を?そして破壊すべきか?←行うことを←あなたの両手の」

5.4.1 「なぜ怒るべきか←エロヒムは」

 裏を返すと,「エロヒムは怒るべきではない」, 「エロヒムを怒らせてはならない」.LXXはその意味を汲んでいる.「それは(〜の)ためです←が怒らない」.エロヒムに逆らうと怒りを招くという当時のを示唆する.こういう考えを応報主義という.

5.4.2 「あなたの声」

 誓いの祈りの声.

5.4.3 「破壊すべき」

 主語は「エロヒム」.「怒る」を受ける.エロヒムの怒りは破壊をもたらすという応報主義の考え.コヘレトの思想ではない.


6

כִּ֣י בְרֹ֤ב חֲלֹמוֹת֙ וַהֲבָלִ֔ים וּדְבָרִ֖ים הַרְבֵּ֑ה כִּ֥י אֶת־הָאֱלֹהִ֖ים יְרָֽא׃


なぜなら多さの中で←夢たちの/そして蒸気たちの/そして言葉たちの←多くの,実に神を畏れよ.


ὅτι ἐν πλήθει ἐνυπνίων καὶ ματαιότητες καὶ λόγοι πολλοί·  ὅτι σὺν τὸν θεὸν φοβοῦ.


なぜなら中に←多さの←夢たちのそして虚無たちの/もまた(ある)←言葉の数々←多くの.なぜならと共に←神/畏れよ.


6.1 MTとLXXとの比較

6.1.1 MTはわかりにくい.LXXはわかりやすくしようと試みた.

6.1.2 MTT「蒸気たち」.LXX「虚無たち」

6.1.3 MT「そして言葉たちの←多くの」LXX「もまた←言葉の数々←多い」

6.1.4 MT「実に」.LXX「なぜなら」

6.1.5 MT「神(エート)」.LXX「神と共に(シュン)」

 MTの「エート」は目的語を示す記号.LXXの「と共に」(シュン)は「エート」と同じつづりの「と共に」を意味する前置詞「エート」と取り違えた.外れである.LXXには時々このような取り違えが見られる.

6.2 「多さにおいて←夢たちの/そして蒸気たちの/そして言葉たちの←多くの

6.2.1 「多さの中で・・・実に神を畏れよ」という構文である.「の中で」で仮に訳したが,この前置詞「ベ」の意味が不明.「ベ」には他にも「〜に」「〜によって」「〜に対して」「〜に従って」「〜のゆえに」などの用法がある.LXXは「の中で」と読むが,成功していない.「にもかかわらず」という提言もあるが,「ベ」にそのような用法はない.

6.2.2 「夢たち」

 履行の熱意を欠く誓いは夢のようなものである.「蒸気たち」はその比喩的表現.「蒸気」は「ヘベル」.コヘレトの鍵語(キーワード)である.

6.2.3 「言葉たち

 前出の「ヘベル」に規定されている.軽率な誓いの祈りの言葉は,水蒸気である.

6.3 「実に神を畏れよ」

 コヘレトは軽々にエローヒムという言葉を口に出さない知者である.この点で,「子は怪,力,乱,神を語らず」(「論語―述而」)と言った孔子に似ている.しかし,口に出さなくても,神への畏怖,これはコヘレトの人生を下支えした信念である.

 
 
 

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