top of page
検索

12/1マタイ福音書のイエス (第20回)~宗教体験の横溢~

執筆者の写真: 平岡ジョイフルチャペル平岡ジョイフルチャペル

2024年12月1日 主日礼拝

聖書講話     「マタイ福音書のイエス (第20回)~宗教体験の横溢~」 

聖書箇所    マタイ福音書 4章12~17節   話者 三上  章


[聖書協会共同訳]  

      ※下線は修正の余地があると思われる部分

12 イエスは、ヨハネが捕らえられたと聞き、ガリラヤに退かれた。13 そして、ナザレを去って、ゼブルンとナフタリとの地方にある湖畔の町カファルナウムに来て住まわれた。14 こうして、預言者イザヤを通して言われたことが実現したのである。15 「ゼブルンの地とナフタリの地/湖沿いの道、ヨルダン川の向こう/異邦人のガリラヤ

16 闇の中に住む民は/大いなる光を見た。/死の地、死の陰に住む人々に/光が昇った。」17 その時から、イエスは、「悔い改めよ。天の国は近づいた」と言って、宣べ伝え始められた。

  •  

 以下は,ギリシャ語原文の解明に基づく三上の私訳と講解です.


12 Ἀκούσας δὲ ὅτι Ἰωάννης παρεδόθη ἀνεχώρησεν εἰς τὴν Γαλιλαίαν.

(彼=イエスは)聞いた後←ヨハネが引き渡されたことを,戻った→ガリラヤへ.

12.1 「(彼=イエスは)聞いた後」

 どこで聞いたのかは,不明である.

12.2 「ヨハネが引き渡された」

 浸礼者ヨハネは,福音書の背後にある伝承によると,紀元28年頃,ヨルダン川渓谷で活動した.紀元1世紀の歴史家ヨセフスによると,ヨハネは実在の人物.Cf. 『ユダヤ古代誌』XVIII―XIX.マルコ福音書によると,ヨハネはガリラヤとペレアの領主ヘロデ・アンティパスの非合法の結婚を避難した.その結果,逮捕され投獄された.投獄された場所は,ヨセフスによると「マカエルス(Machaerus)の砦兼宮殿」.死海の東側、ヨルダン川の河口の南東約25kmの丘の上に建てられた砦兼宮殿.ヨハネはこの場所で処刑されたと,ヨセフスは伝える.

 ヨハネが投獄された後は,イエスの出番である.今や,中傷者による数々の試練を乗り越えたイエスは,強い人になっていた.強い人であるヨハネを継承するのは,より強い人でなければならない.

12.3 「戻った→ガリラヤへ」

 イエスはガリラヤ人である.ひとまずガリラヤ地方に戻った.


13 καὶ καταλιπὼν τὴν Ναζαρὰ ἐλθὼν κατῴκησεν εἰς Καφαρναοὺμ τὴν παραθαλασσίαν ἐν ὁρίοις Ζαβουλὼν καὶ Νεφθαλίμ ·

そしてナザラを後にし,住んだ→の中に←カパルナウム←海辺の/中の←地域の←ゼブルンとネプタリウム.

13.1 「そしてナザラを後にし」

 ここでは「ナザラ」と呼ばれている.マタイ福音書によると,イエスはユダヤ地方のベツレヘムで生まれた.その後まもなく,エジプトに移住した.さらにその後,ナザレに移住し,そこで若き日を過ごした.なぜかは分からないが,イエスはナザレを活動の拠点としなかった.

13.2 「住んだ→の中に←カパルナウム←海辺の」

 ラテン語では「カペルナウム」(Capernaum). ガリラヤ湖の海辺に位置する.シリアからヨルダン川を越えて地中海岸へ抜ける古い商業路の入口に当たる.また周辺のガウラニテス(現在のゴラン高原)からとれた豊富な穀物はローマに出荷されたが,それを規制する税関があり,ローマ軍が駐留していた.地方の行政中心地であった.1905年以来発掘が行われている.その最も主要な遺跡は,2~3世紀のユダヤ教礼拝堂.イエスはカペルナウムで活動を開始した.

13.3 「中の←地域の←ゼブルンとネプタリム」

 『創世記』の族長神話によると,両方とも,イスラエル民族の始祖とされるヤコブの息子たちの名前に由来する地域名である.


14 ἵνα πληρωθῇ τὸ ῥηθὲν διὰ Ἠσαΐου τοῦ προφήτου λέγοντος ·

ために←実現される←語られたことが←通して←エーサイアス・預言者.曰く.

14.1 目的論的預言の実現という論法は,マタイの常套手段である.偉い預言者を後ろ盾として,たたみかける.

14.2 「エーサイアス」

 ギリシア語では,イザヤをこのように呼ぶ.ヘブライ語では,イェシャヤー(יְשַׁעְיָה‎ Ysha'yah).


15 Γῆ Ζαβουλὼν καὶ γῆ Νεφθαλίμ, ὁδὸν θαλάσσης, πέραν τοῦ Ἰορδάνου, Γαλιλαία τῶν ἐθνῶν,

ゼブルンの地とネプタリムの地よ,海の道の方面,ヨルダン川対岸/異邦人たちのガリライアよ,

15.1 15〜16節は,『イザヤ書』MT 8章23節/LXX 9章1節の引用.ヘブライ語本文とも七十人訳ギリシア語聖書とも一致しない.かなりの悪文である.どうしてこうなったかは,不明.

15.2 「ゼブルンの地とネプタリムの地よ」

 この呼びかけは,「ゼブルンの地とネプタリムの地は」と,主語に訳すこともできる.しかし,続く「ガリライアよ」という呼格に鑑みて,呼格として訳した.

15.3 「異邦人たちのガリライア」

 なお,「異邦人たちのガリライア」という表現は,ガリラヤ地方を見下すユダヤ人優位主義の見方を示している.辺境の地,未開人の地という感じ.マタイはイエスに付託して自分自身のガリラヤ観を語っている.他方,歴史の現実に生きたイエスは,ガリラヤをこよなく愛した.平安京の進撃に抵抗した蝦夷のアテルイや,松前藩の進撃に抵抗したアイヌ民族のシャクシャインを連想するとよいかもしれない.

                シャクシャイン

                 アテルイ


16 ὁ λαὸς ὁ καθήμενος ἐν σκοτίᾳ φῶς εἶδεν ⸃ μέγα, καὶ τοῖς καθημένοις ἐν χώρᾳ καὶ σκιᾷ θανάτου φῶς ἀνέτειλεν αὐτοῖς.

その民は←座っている←ある闇の中に,ある光を見た←大きな,そして座っている人たちに←の中の←地方と陰←死の,ある光が昇った→彼らに.

16.1 「その民は←座っている←ある闇の中に,ある光を見た←大きな」

16.1.1 歴史のイエスの観点

 正反対の二つの読み方が可能である.一つは,歴史のイエスの観点.戦争,飢餓,病気,貧困の「闇」の中で苦しむ人々が,希望の光,それも大きな光を見た.社会経済的救済の観点である.

16.1.2 未開人の教化・啓蒙の観点

 もう一つは,未開人の教化・啓蒙の観点である.無知迷妄の「闇」の中で暮らしている未開人たちに,キリスト教の光を照らしてやるという,世界宣教の観点である.


16.2 「そして座っている人たちに←の中の←地方と陰←死の,ある光が昇った→彼らに」

16.2.1 本節前半の繰り返し.

16.2.2 「地方と陰←死の」

 したがって,正反対の二つの読み方が可能である.一つは,戦乱と殺戮のやむことがないガリラヤ地方,死の陰におびえる住民たちの救済のために,平和を作り出す実践活動.もう一つは,そのうちに戦争は終わりますよという他人事の態度.


17 Ἀπὸ τότε ἤρξατο ὁ Ἰησοῦς κηρύσσειν καὶ λέγειν · Μετανοεῖτε, ἤγγικεν γὰρ ἡ βασιλεία τῶν οὐρανῶν.

その時から始めた←イエスは←伝令であることと,語ることを.「あなた方は方向転換せよ.なぜなら,近づいた←諸天のその王国が」


17.1 「その時から始めた←イエスは←伝令であることと,語ることを」

17.1.1 「伝令であること」

 定動詞の「ケーリュッソー」は,「伝令」(ケーリュクス)である」が原義.ケーリュクスの任務は,軍事上の伝言を伝えることである.敵の反対にもめげず,命がけで伝言を伝える.それゆえ,強い人でなければならない」

17.1.2 「語ること」

 定動詞は「レゴー」で,「語る」が原義.単に語るのではなく,ケーリュクスとして語る.

17.2 「あなた方は方向転換せよ.なぜなら,近づいた←諸天のその王国が」

17.2.1 「方向転換せよ」

 定動詞の「メタノエオー」は,「後から考える」「後悔する」が原義.しかし,「心や目標を転換する」という積極的な意味で用いることもできる.他者から当事者に自分自身を方向転換する.自分にも何かできることがあるかもしれない.どんなに小さなことであっても,まず実行してみることである.

17.2.2 「近づいた」

 何もしないで待つということではない.こちらからも近づいていく.結果,近づける.引き寄せることになる.何を引き寄せるのか?

17.2.3 「諸天のその王国」

 キリスト教の教派や教説の宣伝・拡張ではない.平和な世界,誰もが安心して生活することができる幸福な社会.それを自分にできることで引き寄せる.


閲覧数:38回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page