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執筆者の写真平岡ジョイフルチャペル

11/17 ある知者の洞察 (第38回)~栄枯盛衰〜

2024年11月17日 主日礼拝

聖書講話   「ある知者の洞察 (第38回)~栄枯盛衰〜」   

聖書箇所    コヘレトの言葉 6章1〜2節


[聖書協会共同訳]

     [下線は改善の余地があると私には思われる部分]

1 太陽の下、私はある災いを見た。それは人間に重くのしかかる。

2 神が富と宝と栄誉を与えて、望むものは何一つ欠けることのない人がいた。だが、神はそれを享受する力をその人に与えず、他の人がそれを享受することになった。これも空であり、悪しき病である。


 以下は,ヘブライ語(MT)とギリシャ語訳原文(LXX)の解明に基づく三上の私訳と講解.両者とも,各用語の解明に基づく逐語訳に努めた

 1

יֵ֣שׁ רָעָ֔ה אֲשֶׁ֥ר רָאִ֖יתִי תַּ֣חַת הַשָּׁ֑מֶשׁ וְרַבָּ֥ה הִ֖יא עַל־הָאָדָֽם׃

存在する←ある悪が←ところの←私が見た/その太陽の下に.そして大きい←それは←その人間の上に.


Ἔστιν πονηρία, ἣν εἶδον ὑπὸ τὸν ἥλιον, καὶ πολλή ἐστιν ἐπὶ τὸν ἄνθρωπον·

存在する←ある悪が←ところの←私が見た/その太陽の下に.そして多い←それは←その人間の上に.


1.1 MTにLXXはぴったり一致している.

1.2 「存在する←ある悪が←ところの←私が見た/その太陽の下に」

1.2.1 「存在する←ある悪が」

 「存在する」は,歴史と現在に普遍的に存在する事象に言及する.それは何か?「ある悪」である.悪の存在しなかった過去はない.悪の存在しない現在もない.悪にも大・中・小の様々な種類がある.現在の世界の最大の悪は何であろうか?

1.2.2 「ところの←私が見た」

 その悪は,コヘレトという知者が見た悪である.悪の本質を見抜く知性が見た悪である.世の人には善に見えるかもしれないが,実は悪にほかならない悪である.

1.2.3 「その太陽の下に」

 「太陽」(シェメッシュ)に定冠詞が付いているので,「その太陽」と訳した.太陽は複数ではない.一つである.とてつもなく大きな一つである.それが地上の世界を照らし,見渡している.くまなくである.


1.2.4 「おてんとうさまが見ている」

 「てんとう」は「天道」のこと.中国古代の神観に由来し,「天地を支配する神」「天帝」「上帝」の言い換えである.神道では,天照大神が象徴する太陽神.太陽神はすべてを見通している.その光によって,すべてのものは,照らし出されている.これを古代ギリシア人は「真理」(アレーテイア)と呼んだ.輝く太陽の元で何一つ隠されていない状態,すべてがあらわにされた状態という意味である.現代日本では,『週刊文春』や「週間フラッシュ」がまぐれ当たり的に一役買っている.


1.3 「そして大きい←それは←その人間の上に」

1.3.1 「大きい」

 二通りの解釈が思い浮かぶ.一つは,悪は人間の上に重くのしかかる.悪は人間を苦しめ,不幸にする.もう一つは,悪は,それを行う人の上に重くのしかかる.悪の代償は大きい.

1.3.2 「その人間」

 「人間」は「アーダーム」.男女およびすべての人を含む総称.


2

אִ֣ישׁ אֲשֶׁ֣ר יִתֶּן־לֹ֣ו הָאֱלֹהִ֡ים עֹשֶׁר֩ וּנְכָסִ֨ים וְכָבֹ֜וד וְֽאֵינֶ֨נּוּ חָסֵ֥ר לְנַפְשֹׁ֣ו ׀ מִכֹּ֣ל אֲשֶׁר־יִתְאַוֶּ֗ה וְלֹֽא־יַשְׁלִיטֶ֤נּוּ הָֽאֱלֹהִים֙ לֶאֱכֹ֣ל מִמֶּ֔נּוּ כִּ֛י אִ֥ישׁ נָכְרִ֖י יֹֽאכֲלֶ֑נּוּ זֶ֥ה הֶ֛בֶל וָחֳלִ֥י רָ֖ע הֽוּא׃

ある男性←ところの←与えるであろう←彼に←神(エローヒム)が←富と財産と富裕を.そして彼にはない←不足することが←彼の欲求のために←すべてのものが←ところの←彼が欲するであろう.そして許可しないであろう←神は←食べることを←それ(すべてのもの)から.なぜなら,ある男性が←よそ者の←それを食べるであろう.それは蒸気.そして病気←悪い←それは.


ἀνήρ, ᾧ δώσει αὐτῷ ὁ θεὸς πλοῦτον καὶ ὑπάρχοντα καὶ δόξαν, καὶ οὐκ ἔστιν ὑστερῶν τῇ ψυχῇ αὐτοῦ ἀπὸ πάντων, ὧν ἐπιθυμήσει, καὶ οὐκ ἐξουσιάσει αὐτῷ ὁ θεὸς τοῦ φαγεῖν ἀπʼ αὐτοῦ, ὅτι ἀνὴρ ξένος φάγεται αὐτόν· τοῦτο ματαιότης καὶ ἀρρωστία πονηρά ἐστιν.

ある男性←ところの←与えるであろう←彼に←神(テオス)が←富と財産と栄誉を.そして不足することがない←彼の生命に←すべてのものが←ところの←彼が欲するであろう.そして許可しないであろう←彼に←神は←食べることを←それ(すべてのもの)から.なぜならある男性が←外国の←それを食べるであろう.それは空虚.そして病気←悪い←である.


2.1 MTにLXXはおおよそ一致している.語順に多少違うところがあるが,全体の意味に大きな違いはない.

2.2 「ある男性←ところの←与えるであろう←彼に←神(エローヒム)が←富と財産と栄誉を」

2.2.1 「ある男性」

 1節ではすべての人間の総称である「アーダーム」であったが,ここでは男性に限定した「イッシュ」.これを聞いた聴衆・読者は,強い人,権力を持つ人,高い地位をもつ人を連想したであろう.


2.2.2 「ところの←与えるであろう←彼に←神(エローヒム)が」

 「与える」という動詞に着目.「ある男性」からしてみれば,普通は,「稼ぐ」「獲得する」「蓄積する」である.俺のものである.与えられる,いただくという観念はない.しかし,コヘレトは言う.実は与えられるのだと.自分の力と才能で獲得したなどと思い上がってはいけない.

 「彼に」と「神(エローヒム)」が併記されている.「彼が」獲得し,彼が蓄積するのではない.「彼に」「神が」与えるのである.主従で言うならば.ある男性は従であり,主は神である.「私が」「私こそは」「他でも私が」「私自身が」という自己中心主義は,限りなく背面に押しやられる.神が全面に立つのでなければならない,とコヘレトは言いたい.

2.2.3 「富と財産と富裕を」

 同じような名詞が三回も連ねられている.富裕こそは,悪と不幸と惨めさの種になりかねないという認識を,コヘレトは強調している.


 たとえば,ギリシア神話に登場するプリュギアのミダス王.ディオニュソス神に,触れるものすべてが黄金に変わりますようにと願い,その願望がかなえられた.しかし食物まで黄金になってしまうため空腹に耐えかね,神に赦しを乞うて魔力から脱した.


2.3 「そして彼にはない←不足することが←彼の欲求のために←すべてのものが←ところの←彼が欲するであろう」

 2.3.1 「彼にはない←不足することが←彼の欲求のために」

「衣食足りて礼節を知る」という古代中國の諺を想起する.中国春秋時代の「管子」牧民篇の言葉に由来する.原文は,「倉廩実つれば礼節を知り,衣食足りれば栄辱を知る」.「生活水準を上げなければ,人民の程度は上がらない」.言い換えれば,「人民の道徳性を向上させるためには,まず民の生活を安定させることだ」ということ.国家の統治者に向けて語られた言葉である.

 この言葉に耳を傾ける政治家は,たとえば100人中何人がいるだろうか?遺憾ながら,自分の衣食住にばかり執着して,国民の生活向上には留意しない人のほうが多いのではないだろうか?「衣食住足りて,礼節を忘れる」である.

2.3.2 「すべてのものが←ところの←彼が欲するであろう」

 「すべてのもの」.たとえば,家.富裕層は別荘を持ちたがる.食事.富裕者は高級レストランで食事をしたがる.配偶者.富裕者は愛人をもちたがる.すべての富裕者がそうするとはかぎらないが,概してそういう傾向がある.


2.4 「そして許可しないであろう←神は←食べることを←それ(すべてのもの)から」

2.4.1 「そして許可しないであろう←神は」

 神の許可・不許可という観点が重要である.人間社会の保全に許可・不許可はつきものである.青信号は通行許可.黄色・赤信号は通行不許可.横断歩道のないところの乱横断は歩行不許可.神の正義にも,いや神の正義だからこそ,許可・不許可がある.

2.4.2 「食べることを←それ(すべてのもの)から」

 神が食べることを許可してくれる.家をもつことを許可してくれる.それゆえ,感謝と謙りをもって食べる.家を維持する.神の許可が得られないものには手を出さない.その倫理観がきわめて重要である.


2.5 「なぜなら,ある男性が←よそ者の←それを食べるであろう」

2.5.1 「なぜなら」

 神の許可・不許可の理由説明としての一例である.

2.5.2 「ある男性が←外国の」

 二通りの解釈が可能である.一つは,よそ者.財産相続者にあたる子どもがいないので,家族ではない人がこの富裕者の財産を食い尽くすことになる.もう一つは,外国人.国王が外国に打ち負かされて,土地・財産を全部奪われてしまう.

2.5.3 パルテノン神殿


2.5.4 GHQに接収された山本有三の家


2.5.5 「それを食べるであろう」

 「食べる」(アーハール)は,そういう意味であるが,「消費する」「享受する」を意味することもできる.


2.6 「それは蒸気.そして病気←悪い←それは」

2.6.1 「それは蒸気」

 「蒸気」は「ヘベル」.「息」「蒸気」が原義.そこから「無」「壊れやすさ」「空虚」といった比喩的な意味が派生.「一時的なもの」「消えやすいもの」「はかないもの」という意味で「蒸気」と訳しておく.英語ではvapor. 土地・財産を取ったり取られたりすること,栄枯盛衰は「蒸気」にすぎないことを留意せよと,コヘレトは言う.

2.6.2 「そして病気←悪い←それは」

 アレクサンドロス大王の痛ましい最後を連想せざるを得ない.彼は,わずか15年ほどでインドに至るまでの大帝国を築いたが,紀元前323年,バビロンのネブカドネザル2世の宮殿において若干32歳でこの世を去った.アリストテレス大学の研究者グループの研究調査によると,王の死亡原因はマラリアと腸チフス,肺炎あたりではなかったかと推定される.自分は神であると豪語してはばからなかったアレクサンドロス大王であるが,病気には勝つことができなかった.

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